かつての勇者譚 9
「……」
チヒロは指を噛んだ。
みんな、とっくに限界だった。
それなのに、自分は未だに温存されている。
散々話し合って納得したことだが、未だにどうすることも出来ないもどかしさがある。
「……魔王は一体どこまで、深い場所にいるのかな」
「……さぁな、俺達が力尽きるまでにはたどり着きたいところだが」
「十中八九最深部でしょ?
敵の大将なんだから、一番奥で少しでもあたしらの疲弊を誘って、有利な場面で戦おうとしてるんでしょ」
「…………あのさ、それって本当にそうなのかな?」
「どういうこと、チヒロ?」
チヒロは引っかかりを覚えていた。
「結局のところ、わたしと魔王がぶつからない限り、この戦いの終わりはないんでしょ?」
「あるいは、どちらかが完全に滅べば、ですが……」
「それにしたって、最後はわたしか魔王は戦うしかないんだから、そんなに変わらないけど」
「まぁ、流石に戦力では拮抗してる状態で、
魔王も自分以外がチヒロを倒せるとは思ってないんじゃないか?」
仮に魔王以外がチヒロを倒す時が来たとすれば、チヒロが継戦出来ないところまで追い込むしかない。
物量作戦でチヒロを追い込むしかないが、戦力が拮抗している状態では周りがそれを許さないだろう。




