かつての勇者譚 6
そうなった場合、
恐らく一番最初に倒れるのは回復をしながら、戦闘もこなすリチャードだろう。
そして、その場合、戦えないものを庇いながら戦い続けれる余裕など、この最終決戦の場面でない。
つまり、真っ先に死ぬ覚悟はあるのか?と、レオンは聞いていた。
「わかってるさ。みんな全部わかってこの場所にいるんじゃないの?」
こともなさげに、リチャードは断言した。
全てを覚悟して、勇者パーティーはここにいる。
その一人一人が……
「……え?」
重荷にならないよう、知らされていないチヒロを除いて……
「……」
レオンは叫びたくなる衝動を抑えた。
今まで隠し通してきた以上、今、チヒロに知られてメンタルに不調をきたされては困る。
故に最後の最後まで、知られては困る。
「……レオン、決断を。他に選択肢なんて、ないじゃないか」
当然、リチャードにもその覚悟があるのは、重々承知していた。
しかし、それでも、切り捨てる順番は一番最初ではないと、他の誰もが思っていた。
パーティーの中でひときわ若い……子供を。
リチャードは真っ直ぐに、レオンを射抜く。
全てを受け入れたはずの瞳は誰よりも澄んでいる……まさに聖者だった。
「……ああ、その通りだ」
レオンは鞄から聖水の瓶を二本取り出すとリチャードに投げ渡した。
「……先を急ごう。時間が惜しい」
レオンは自身の左手の震えを抑えるように、ロープを強く縛りつけた。
強く縛り過ぎて、ロープの隙間から血がしたたり落ちていた。




