呼び寄せられたもの
「…………」
けだるげに、よろっとチヒロは起き上がった。
そう、チヒロは生きていた。
奇跡的に、というには奇怪だ。
『床』に叩きつけられた、というダメージがない訳ではない。
それでも、落下時間を考えれば、とんでもない距離を落ちたことになる。
通常ならば、死ぬどころか、どこまで細かい肉片になるか?そのレベルの話だ。
なのに、チヒロは……例えるなら、階段を踏み外して、踊り場に転げ落ちた。
その程度、というは語弊があるかも知れないが、今まさにチヒロが負ったダメージはその程度だった。
「……痛い」
チヒロは頭を抑える。
落下のダメージよりも、収まらない頭痛に対しての呟きだった。
しかし、その頭痛が道しるべだった。
後ろに戻ったところで道はない。
しかし、前に進む度に頭痛がきつくなる。
チヒロは確信した。
この頭痛――そして、謎の空間。
ワタシは呼ばれたのだと――
歩を進めると、扉があった。
そう、あったのは扉だけだ。
それ以外に何もない。
故にその扉を開ける以外、チヒロに選択肢はなかった。
だから――
扉を開けた瞬間、チヒロが光に包まれ、
世界がホワイトアウトしたとしても、それは回避出来ないことだった。
そして、純白にチヒロは全てを飲まれた。




