勇者の消失
「消えた……?消えたって、どういうことですか……?」
「文字通り、消えたのですわ!山の麓に吸い込まれるようにして……」
「!?」
単なる失踪ではなく、消失した……!?
「私が見に行きます。詳しく場所を教えて下さい!」
「は、はい!」
そうは言いつつも、私が向かったところでどうにかなるとは限らない。
嫌な予感がしてならなかった。
ちーちゃんに関しては、私には知り得ない何か……その何か問題に抱えている。
その何かのせいだったとしたら、私には見つけられないかも知れない。
もし、そうだった時は――
ちーちゃん自身を信じるしかない――
――
チヒロは自由落下していた。
宙に放り出された人間に出来ることなど、ほぼない。
空を飛ぶ術がないのならば、せいぜいもがくことがやっとだろう。
それを知っていたチヒロはただ、落ちていくままに身を任せていた。
そして、それ以上に頭痛が一向に緩和されないことのほうが煩わしかった。
そもそも、落下しているのなら、精々数秒の出来事ではないのだろうか。
彼女の体感では、ゆうに30分は落ち続けている。
そんなことが現実世界でありえるのだろうか?
しかし、そんな疑問を抱くことすら、煩わしかった彼女は、その一切を放棄して目を閉じた。
全てを受け入れた彼女は、ようやく『床』に叩きつけられた。




