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聞きなれた音
「それに、まだ実戦で使えるとは思えない……」
集中に集中して、今の形だ。
戦闘中に相手と対峙しながら、練れるとは思えない。
せめて、相手を見る程度の意識をさいて出来なければ……
と、その時、馬の駆けていく音が聞こえた。
私の居る場所は村に繋がる道と隣接している高台だ。
耳をすませていれば、村の出入りをある程度判別できる。
そして、その馬の音に聞き覚えがあった。
私はすぐに、道を見下ろせる位置へと走った。
「……あの馬車は」
乗り慣れた、シンシアさんの馬車だった。
私は地を蹴ると、道沿いへと飛び降りた。
そして、馬車と並走するように走り出した。
すぐ近くまでくると、やはりシンシアさんが手綱を引いていた。
しかし、どこか焦った表情でこちらにも気づいていない。
なにかあったのかも知れない。
私は驚かすのを承知で声をかけた。
「シンシアさん!」
「え!?あっ……!!」
シンシアさんが手綱のコントロールを乱した。
私は咄嗟に隣に乗って、手綱を引いて、元に戻した。
「そんなに慌てて、なにかあったんですか?」
「そ、それがっ、チヒロさんが……」
「ちーちゃんが?」
「消えたんです!」




