山猿
ミカ姉さんの誘導に従い、山の中を奥へ奥へと進んでいく。
「あの……どこまで行くんですか?」
「誰の耳も確実にないと言えるところよ」
「……」
私に構うつもりもないように、ミカ姉さんは山奥を慣れたそぶりで駆けていく。
まるで遠慮のない速度だ。
私でさえ、ついていくのがやっとだった。
それでも、振り切られまいと必死に食らいついた。
まるで鬼ごっこでもしているかのような気分だった。
……
……時間にして30分は山の中を駆けまわっただろうか?
ミカ姉さんは事ここに至っても話す気などないのかも知れない。
そう思い始めた時になって、ミカ姉さんは足を止めた。
「ここよ」
そう言い放ったのは崖の岩壁の真ん中だった。
「この上には何もないし、わざわざこんなところに用があるのはそれこそ修練者くらいよ。
そして、アタシの道場からも離れているから、まず見ないわ」
「……」
ミカ姉さんは慣れた身体さばきで、器用に岩壁の合間を縫うように身体を預けた。
「それでも、念の為に……『サイレント・フィールド』」
「消音魔法まで……」
拳の道に進んだと行っても、私達きょうだいは魔法を一通り覚えている。
ミカ姉さんの張ったフィールドは正常に作動し、私達を覆った。




