勝利を認めない者
ミカは深くため息をつくと立ち上がった。
「キュウ」
「こんな勝利があっていいのですか!?」
「アンタ、いつから勝敗に文句つけられるほど偉くなった?」
「っ!」
キュウは即座に敗れた道着の襟を正し、正座した。
「申し訳ありません!しかし……師範の言いつけ通りに事をなすことは出来ませんでした」
頭を下げるキュウ。
「……」
それはミカはじっと見下ろしていた。
「仮に剣を使われていたら、負けていました」
ミカはまた深く息を吐き出した。
「そう、確かにその通り。あれは『剣聖』――兄の技を完全とは言えないまでも模倣していた。
剣ならば、アンタの命さえ奪いかねなかった。その点において申し訳ないことをしたね」
「師範……!いえ、自分が妹殿の実力を見誤っていました」
「それを言うなら、アタシもだ」
ミカは倒れたままのクリスをじっと見つめ、ポツリと呟いた。
「まだまだ、未熟、か……」
「え?」
ミカは首を振るとクリスを担ぎあげた。
「妹はアタシが面倒を見る……キュウは傷の手当ののち休養、他の者は鍛錬を再開しなさい」
そう言って、ミカは道場の奥にクリスを運んでいった。
しかし、身体能力はともかくとして、
身長、体格のせいで、クリスの足が引きずられるギリギリで弟子達はひやひやしていた。




