ランパードの見立て
倒れたままの私にラン兄さんは手を差し伸べた。
「あ、ありがとうございます」
私はその手を取り、起き上がった。
「……技量や能力は格段に上がっている。
だが、追い詰められると周りが見えなくなるクセは改善されていないな」
ラン兄さんの寸評は的を射ていた。
「は、はい……」
「だが、仕方のないことかも知れぬ。最近までは家にいたのだろう?」
「そうです」
「訓練によって、技量と身体は鍛えられる。だが、実戦感覚は場数を踏むことで改善されていく」
「じゃあ、私も……」
「そうだな。戦いにおいては常に冷静でいようとつとめよ。さすれば、改善されていくだろう」
「は、はい!」
「……先程のもそうだ」
「え?」
「冷静になることが出来ていたのなら、クリスに勝機がなかったわけではない」
「そ、そうなんですか!?」
「クリスの成長具合を見誤っていた。
冷静に攻め手を繰り出されれば、守りを突破されていたかも知れぬ」
「私が……ラン兄さんに?」
「ふ……強くなったな、クリス」
そう言って、ラン兄さんは私の頭を撫でた。
「ら、ラン兄さん……」
厳しかったラン兄さんの思わぬ言葉に私は泣きそうになってしまった。
「……そろそろ、朝食の時間だ。今はシンシア嬢のことを考えねばな」
「は、はい!」
「おれは先にいく、汗を流したければメイドに声をかけるといい」
「わかりました」
ラン兄さんが道場を出ていくと、私はラン兄さんの言葉を反芻していた。
完敗だと思った。
それでも心の奥底は充足しているように思えた。




