必要な「さようなら」
…………
旅立ちは大抵朝だった。
「そうか、もう行くのかい」
「ええ、お世話になりました」
「いや、こちらこそだね。色々と迷惑をかけた」
「それはいいっこなしです」
出発前、リタ船長達に最後の挨拶をしにいった。
お互い、それなりに危険なことをしている同士だ。
これが今生の別れになるかも知れないことは察していた。
それでなくても、またこの海を渡る時がこなければ、もう会うことはない。
アル兄さんの捜索で、あちらこちらに行くことを考えると、ありえないことではなかった。
長い航海で、船員のみんなとも仲間意識が芽生えなかった訳ではない。
それでも、これが”必要な”別れである以上、口にすることはしなかった。
「それじゃあ、またいつか」
「ああ、元気で、また会おうさね」
別れの言葉で、自然とでた、”また”。
それが建前なのか、本音なのか、自分でもわからなかった。
挨拶が終わり、馬車に乗り込むと、同じくらいのタイミングでちーちゃんとシンシアさんも戻ってきた。
セレナ蝶は、流石に挨拶まわりという訳にはいかなかったが、
あとの二人もどことなくしんみりしていた。
その空気を振り切るように、私は元気よく言うことにした。
「さ、行きましょう!」




