旅立ちの朝
旅立ちの朝、体調は万全だった。
天気は快晴、空も私の旅立ちを祝福してくれているようだった。
「それでは、行ってきます。お父さん、お母さん」
「少し待ちなさい」
「お父さん?」
「これは餞別だ。武術の心得があると言っても、剣は持っていたほうがいい」
そう言うと父は皮の鞘に収まった剣を差し出してきた。
「現役の頃に使っていた剣は既に他のきょうだい達に渡してしまった。
これは長い間使っていた練習剣を鍛え直したものだ。
こんなものですまないが……」
そうは言うが、受け取った剣を握ってわかった。
その辺の市販の剣よりも頑丈で、鍛え直したぶん鋭く、高性能になっている。
父は剣士であったが、現役時代は自分の剣を打つほど、鍛冶にも長けていた。
「ありがとう、お父さん!」
「お母さんからはこれを」
母は青い水晶がついたペンダントを渡してきた。
「お母さんも昔の道具や装備は他の子にあげちゃったから……
代わりに昨日一晩、貴女のためを思って祈ったわ」
『聖女』の祈りが込められたペンダント――
これなら、仮に攻撃を受けてもダメージを軽減してくれるだろうし、
かすり傷程度なら無効化してくれる。
「お母さんもありがとう!」
「……行くんだな?」
「はい!」
「わかった……クリス、いや、クリシュナ」
「はい」
「戻りたくなれば、いつでも戻ってきなさい。ここは君の帰る家なのだから」
「お父さん……」
「旅先でお兄ちゃんやお姉ちゃん達に会ったら、頼っていいのよ。貴女達はきょうだいなのだから」
「はい、お母さん!」
「お父さん達はアルスフォードのことは心配だ。だが、クリシュナのことも心配なんだ」
「無事でいてね。貴女達はいつまでもお母さん達の子供よ」
「はい!」
「……息災でな」
「はい、行ってきます!」
私は父と母に背を向け、慣れ親しんだ家を出ていった。
そのまま、歩いていると父と母のエールが聞こえた気がした。
私はそれでも振り返らず、歩みを進めていった。
晴れ晴れとした気持ちだったのに、何故か頬をつたい、涙が零れ落ちていた。