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クリスの選択
「な、なにが……?」
「なにか言いたげだったから」
「……」
レイは顔を隠すように帽子を深くかぶり直した。
「レイ?」
「なんでも、ない」
そんな風に意味ありげな仕草で言われても説得力がない。
だけど、それを指摘するのも野暮だった。
「……そっか」
「まだ、仕事中だから」
「あ、うん、ごめんね。呼び止めて」
「ううん、今日は買ってくれたし。
元気でね、お姉さん達」
「うん、レイも元気で」
レイは軽く頷くと私達から離れていった。
その背中を見送っているとちーちゃんが肩を叩いた。
「何があったのかはわからないけど、助けて、とは言ってないね」
「ええ」
「何があったとしても助けないの?」
「…………」
私は目を閉じた。
そして、意を決して口を開いた。
「レイっ!!」
背を向けていたレイがビックリして振り返った。
私は硬貨を取り出すと、レイに向けて親指で弾いた。
レイは昨日見せた反応のよさのまま片手で掴んだ。
「お小遣いだと思って」
「あ、ありがとう!」
レイは深く頭を下げた。




