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レイ
売り子はひとしきり笑うと、ふう、と
「そうだ、お姉さん旅人だろ、宿はどうするんだい?」
「え、仲間が戻って来てから決めることになると思う」
「だったら、安くていい宿を知ってるんだ。
礼というにはしょっぱいけど、売り物に手をだすわけにはいかないし、他に渡せるものもないしさ」
「別にお礼なんて気にしなくていいのに。
でも、そういう話なら紹介してもらおうかな」
「うん。えっと確か……」
売り子は洋服のポケットをまさぐると、一枚の紙を差し出した。
「あった。ここだよ、地図も書いてあるからわかるとは思うけど、ちょっとわかりづらい場所にあるんだ」
受け取った紙は宿屋のチラシのようだった。
「一応、あた……ボクの商売先でもあるんだ、”レイ”からの紹介だって言うとわかると思うから」
「そうなんだ。仲間と合流したら話してみるよ」
「うん。いい宿だから、きっと気に入ると思うよ」
「ありがとう」
「いや、こちらこそ」
そう言って、売り子……レイとは別れた。




