丁寧さの中の失礼
「投げなくてもいいじゃないか」
男は恨めしそうに舌打ちをすると、そそくさと逃げるように去っていった。
「ありがとよ、お姉さん」
売り子は帽子を脱ごうとしたが、寸前で何かに気付いたように思い留まり、帽子をかぶり直した。
帽子の隙間からぽろりと髪の毛の束が見えた。
恐らくは、長い髪を見られたくなかったのだろう。
「いや、おかしいことをおかしいと言っただけだよ」
「そうかい?はは……あはははっ!」
ははっと売り子は愛想笑いをしたかと思ったが、その流れのまま笑い出してしまった。
「ど、どうしたの?」
「いや、お姉さん、そんな風に喋るのに、さっきの野郎にはあんな態度なのに、かしこまった喋りかただったじゃないか。それが、おかしくて、あははは!」
「うっ……」
思えば、礼儀正しくしようとしている面もあったけど、
他のきょうだい達へのコンプレックスから、親兄弟にも敬語で話すようになり、
目上……というか年上ならば、全員敬語で喋るようになった。
それ自体はそこまでおかしいことではないのだが、その反動なのか、ついつい年下(だと思ったら)、
馴れ馴れしくなってしまう。
それ自体もそんなに変なことではないが、この子とは初対面だ。
それはそれで失礼なことじゃないかと、急に恥ずかしくなった。




