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新聞売り
そういったこともあって、今出来るのは手綱を持ちながら、イメージトレーニングをするぐらいしかない。
時々は奥にいる結晶化したセレナのことを気にかけてはみるものの、今このタイミングで変化が起るということもなかった。
と、そんな時だった。
「お姉さん、新聞はいらないかい?」
声のほうに視線を降ろすとハンチング帽を被った子供が小脇に新聞を何束か抱えていた。
「今朝の新聞なんだけど、安くしておくよ?」
なるほど、余った新聞をこうして手売りしているようだ。
「お姉さん、旅の人だろ?情報は欲しいんじゃないのかい?」
そう言われると、買っておいて損はないかも知れない。
そう思ったけど――
「せっかくだけど、買えないかなぁ……」
「ありゃ、そうかい?じゃあ、口寂しいんじゃないかい?お菓子はどう?」
そんなものも用意してるんだ、と商魂逞しさに感心した。
しかし、首を縦に振れない理由がある。
「いや、手持ちがないんだ」
お金の管理はシンシアさんがやっているし、そもそもこの国の通貨を持っていないのだ。




