動かない理由
「そこまでおっしゃられるのでしたら……」
「なんだか、悪いね」
「気にしないでください」
――
港で馬車を受け取ると約束通り、広場で待つことにした。
到着したばかりでリタ船長達も忙しそうだし、宿の場所は聞いていたので、別れの挨拶はまだ先だ。
「ふぅ……いい天気だ」
馬達を消耗させないよう木陰で馬車を停めつつ、いつでも移動できるように手綱は持ったままだ。
アル兄さんを探すという目的こそあるものの、まずミカ姉さんと合流してから、という風に考えている。
最初の頃のように闇雲に聞き込みをしても、効率が悪いことはわかっていた。
そもそも、大抵の人達はアル兄さんのことを知っていても、具体的な容姿まではわからない。
仮に顔を見ていたとしても、アル兄さんが名乗らなければわからないのだ。
一度、冷静になって考えてみると、
アル兄さんが本名を名乗っていれば、そういった情報が入ってきているはずだ。
しかし、そういった情報がないということは、偽名を使っているか仙人のように人目のつかないところでひっそりと暮らしているのではないか、という仮説が立てることが出来た。
それを踏まえると、地道な聞き込みは、
せめて大まかな地域を絞り込まないと徒労に終わる可能性が高かった。




