対面
ラン兄さんの邸宅に到着し、自分が妹だということを使用人の人に伝えると、
奥の修練場……板張りの道場に通された。
道場の中心でラン兄さんは袴姿で正座していた。
「……クリスか、久しいな」
「は、はい!お久しぶりです、ラン兄さん」
ランパード兄さん。
私たちきょうだいの三男で父の跡を継ぎ、
二代目『剣聖』とて王都に修練場を構えている。
本来なら、お弟子さんが大勢いるはずだが、日は傾き、間もなく夜となる頃だったためか、
道場には他にも誰もいなかった。
「うむ。息災であったか?」
「はい。ラン兄さんこそ、お元気そうでなによりです」
「そうか。それで何用か?見たところただ兄の顔を拝みにきたわけではないのだろう?」
ラン兄さんの鋭い眼差しが突き刺さる。
ラン兄さんは自分にも他人にも厳しい、求道者のような人だった。
その鋭い眼差しは全てを見透かしているようで身が引き締まる思いがした。
「ラン兄さん、暫くの間、私達を匿って欲しいんです」
「匿う……ほう何故に?」
「それは……」
「クリシュナ様、ここは私に説明させていただけますか?」
そう言うとシンシアさんが私の前に出た。
「はじめまして、『剣聖』殿。私、シンシア=エルシャーレと申します」
「エルシャーレ……聞き覚えのある名だ」
「はい、エルシャーレ家は公爵を名乗らせていただいておりました。そして、私は……」
「……かの悪女、か」
「はい。そのように呼ばれています」