旅立ちの前の日 後編
「反対するのは訳がある」
「私がきょうだい達の中で一番弱いからですか?」
「それもある。だが、クリスはそれ以上に優しすぎるんだ」
「どういうことですか?」
「クリスのしようとしている旅は、厳しいものだ。優しい人間は辛い想いをするだろう」
「どうしてですか?アル兄さんだって、とても優しかった!」
「アルスフォードは……悲しみを背負っていたから」
「え……?」
「クリスはまだ小さかったから、覚えてないかも知れないな。アルスフォードには同じ年の幼馴染がいたのは知っているか?」
「いえ……」
「アリス……アルスフォードとはとても仲のいい女の子だった。だが、今はもういない……」
「!?」
「家族で運送業をやっていてな。森で馬車を引いていた時に家族共々魔物に襲われた」
「……じゃあ、その時に」
「お父さんやアルスフォードが駆け付けた時には手遅れだった。
それからだ、アルスフォードの技に悲しみがこもるようになったのは」
「……」
「アルスフォードはそれ以降も、助けたくても助けることの叶わなかったもの達の想いを命を背負うようにして強くなっていった。それがアルスフォードの強さの源だった」
「……じゃあ、アル兄さんはあの時……」
「心当たりがあるみたいだな。アルスフォードはクリスには自分と同じような悲しみを背負ってほしくないのだろう」
それでも――
それでも、私は――
私は大きく首を振った。
「アル兄さんは言ってました。自分のようにならなくていい、と」
「ならば……」
「自分とは違う強さを持つことが出来る、と」
「!!…………アルスフォードが、そう言ったのか」
私は大きく頷いた。
「……わかった。ならば、反対はしない」
「お父さん……」
「その悲しみを背負わない強さを見つけてきなさい」