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ビギナーズラックはラックがあってこそ
「ここにしましょう。ここなら、皆さんの邪魔にはなりませんわ」
デッキ上で、船員達の動線に当たらない場所を探して、三人で釣りを始めた。
椅子代わりに空の木箱や樽に腰掛け、糸を垂らした。
……そして、一時間後。
「ううん……流石に一時間経っても一匹も釣てれないとは思ってませんでしたわ」
「まぁ、疑似餌は生餌の釣り以上に難しいと言うからね」
針の部分に魚が喰いつくように、仕掛けを生きているように見せなければならない。
要は魚を騙さなければならないのだが、生餌での釣りもまともに経験のない私達には難しかった。
「あと、同じ場所に留まるより、釣れるポイントを探したほうがいいってのもあるけど……」
「船自体は動いてますし、他に邪魔にならない場所を探すのは手間ですわね」
「気長にやってみるしかないんじゃないですか?」
「そうですわね。どうにか、今日中に一匹、それを目標にしましょう」
「……」
今日中と言われても、私は鍛錬があるのだけど……
「頑張りましょう!」
燃えているシンシアさんにそれを言うのは憚れた。




