繊細な硝子
病床で、レナさんは苦しそうに眠っていた。
以前より、症状が進行しているが一刻を争う、というほどではない。
だから、魔力が完全に回復するまで、一日待って、私達は来ていた。
「……」
聖魔石を左手で握り、右の指先に聖魔力を発生させる。
そして、レナさんの眉間にゆっくりと指先を置いた。
「っ……」
感覚で理解した。
異なる性質の魔力による中和……要は対消滅だ。
言葉で言うより、簡単な作業ではない。
単に聖魔力を流し込めばいいという訳ではない。
対消滅させなければならない。
要は全く同じだけの魔力が必要なのだ。
多すぎても、少なすぎても、後遺症が残るだろう。
「……」
額に汗が浮かぶ。
それでも、やるしかない。
現状、この場でそれだけのことが出来るのは私だけだ。
私は気功の『針』を思い出していた。
気功と魔力の差はあれど、感覚は似ていた。
聖魔力自体に自身の感覚を残し、ゆっくりと注入していく――
イメージはグラスにゆっくりと水を注ぐように――糸のように細い水をグラスに張り詰めるまで注ぐイメージ。
勢いよく注いではいけない。
それではグラスが割れてしまうから――
目を閉じ、感覚に集中する。
そして、グラスに水が張り詰めた時、私はゆっくりと指を離していた。




