思い出は分岐を起こすか?
その時、ふと、アル兄さんとの思い出が蘇った。
あれは確か、ボードゲームの相手をしてもらった時で――――
……
兵隊の駒を動かし、相手の王の駒を取ったほうが勝ちというゲーム……正式な名称はなんだったろうか?
何故だか、名前を忘れてしまったそのボードゲームで私はアル兄さんに相手をしてもらっていた。
「うーん……」
いい勝負をしている、というのはうぬぼれで、
今になって思えば、アル兄さんに接戦になるよう手加減をしてもらっていた。
「どう攻める、クリス?」
「決めた、ここにします」
我ながら、妙手だと思った。
ただ、アル兄さんの様子を伺うと口元に手を当て、何かをぼそり、と呟いた。
「……学ばせておくのも、いいかな」
「え?」
「いや、なんでもないよ。じゃあ、こう返そう」
アル兄さんは王への道を無防備に開けた。
それを見て、私は考え無しに飛びついてしまった。
「だったら、これで!」
私の一手を見てアル兄さんは、ふっと息を吐き出した。
「残念だけど、クリス。それは悪手だよ」
「えっ?」
「まぁ、最後までやってみようか」
アル兄さんに従い、最後まで指すと、よくわかった。
アル兄さんのあの一手は、罠だった。
攻めた先には一歩届かず、逆に無神経に飛び込んだことで、
薄くなった守りを突き破られ、私は負けてしまった。
「クリス、あの時はこう指すべきだったんだ」
アル兄さんの示した手は一見、遠回りに見えるような手だった。
しかし、攻めつつも、守りも崩していない良手だと、盤面を進めてみるとわかった。
「いいかい、クリス、この――に限らず、現実にも似たようなことが起る。
何もかも上手くいった気でいったと思い、詰めを見誤れば一気にひっくり返されることもあるんだ」
……
アル兄さんは教訓を教えてくれたのだろう。
そして、今、このことを思い出したということは……私は詰めを見誤っているという直感だ。




