旅立ちの前の日 前編
「お父さん、お母さん、私、家を出ようと思います」
その時、ホットコーヒーを飲んでいた父はそのまま、膝にコーヒーをぶちまけ、
洗い物をしていた母は皿を落として割った。
「うわちちちっ!!こ、氷魔法を!!」
「あら、大変!ほうき、ほうき!」
「『アイス』!母さん、悪いが雑巾をとってくれ!」
二人より冷静だった私は、ほうきと雑巾を持ってきて二人に手渡した。
「あ、ああ。ありがとう……」
「ありがとう、クリスちゃん」
「……あの、そんなに驚くことですか?」
「いや……その……な?」
「てっきり、クリスちゃんはお嫁に行くまでうちにいるものだと思っていたから……」
「なに!?嫁だと!?許さんぞ、おれは!」
「お父さん、まだ未来の話ですよ」
「む……?そうか……」
私はわざと大きく咳払いをした。
「お父さん、お母さん、私ももう16です」
「まだ、16だ!」
「お父さん、結婚の話ではないですよ」
「あ、ああ……」
「……他の兄さん姉さん達は遅くても15歳、早いと10歳で家を出ました」
「うちは自立が早いからなぁ……親としては寂しい限りだ」
「……でも、私もそろそろ家を出ないといけない頃だと思うんです」
「絶対にそうしないといけない訳じゃないのよ、クリスちゃん?」
「……なにか、理由があるのかい?」
私は大きく頷いた。
「アル兄さんを、探したいんです」
「「……」」
父と母は互いを見合った。
6年前、世界を救う旅に出たアル兄さんは、大冒険の末に世界を救った。
だが、それ以降、アル兄さんの消息は不明になっていた。
「それだって、必ずしもクリスがいかなければならないことではないんだよ」
「他のきょうだい達が探してくれてるし、お父さんやお母さんも昔のツテを使って、調べてもらってるのよ」
「でも、自分の力で探したいんです。自分だけ何もせずに待っているのは辛いんです」
「「……」」
二人は再び互いを見合うと、父が口を開いた。