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歪み
「そんな……!?」
全てを見ていた、彼女は立ち尽くしたまま、呆然としていた。
「……く!」
やがて、決心したように二人が消えた場所へと走り出した。
「はぁ……はぁ……!」
そして、”その場”の前で立ち止まった。
「……やっぱり、これは空間の歪み」
彼女は何故、そんなことがわかるのか、自分ではわからない。
だけど、目の前で塞がる、線のような黒い歪みを彼女は確かに視認していた。
「う……ぐ……これは、どう、したら…………」
鋭い頭痛が彼女の、脳を揺さぶる――
結論から言えば、彼女は対処法を知っていた。
正しくは知っていることを、知っていた。
だけど、今は思い出せない。
「どうして……わから、ない……の……」
それは彼女が封印されたから。
そういう、”シナリオ"だったから――
しかし――
時として、勇者は”決められた運命”さえも覆す力を持つ――
「…………死を忘れるな?わ……た……シは忘れている…………」
彼女の左の瞳は黄金色に光り始めていた。




