存在しない記憶
私達は宿から直接見える位置にならないよう、民家の影に隠れた。
「はぁ……はぁ……さっきのは一体……?」
得体の知れない恐怖に対し、私の心臓は跳ね、息が荒くなっていた。
「……空間、圧縮」
「え?」
「弾丸を起点として、銃口から放たれてから、
弾丸が他の何かに触れるのを合図に一定の範囲の空間を圧縮する……」
「知ってるんですか、ちーちゃん!?」
「……」
「ちーちゃん?」
「……なんで、こんなことわかるんだろ」
「え?」
「こんなの、誰にも教わってない……見たこともないはずなのに、どうしてこんな知識が……」
「ちーちゃん……」
事実として、ちーちゃんは、この世界に来てからの記憶を失っている。
しかし、ふとしたきっかけで、その記憶をこうして思い出すこともあるだろう。
ただ、その記憶そのものは彼女にとって得体の知れないものでしかない。
「大丈夫ですか?」
「あんまり……って言いたいところだけど、そんな場合じゃないよね。
クリスちゃん、どうするの?」
「向こうが襲ってくるなら、戦います」
「宿にいるセレナちゃん達は、どうするの?」
「あの――メメの口振りからは、私達が余計な事を知ったから、始末すると言ってるようでした。
それを考えると、優先すべきは私達……少なくとも、すぐに危害は加えようとはしないでしょう」




