夜の鍛錬
夕食を済ませたあと、私は剣を握った。
イメージトレーニングでも、身体を動かしながら感覚を掴む必要があるからだ。
想像するのは、ラン兄さんではなく、私。
想像の私が打ち込む『無形の型』を破れなければ、ラン兄さんの『無形の型』は破ることなど出来ない。
そう思い、夜の闇の中、剣を振るった。
そして、10回立ち合い、気付いた。
私の『無形の型』でも、私は破る術を持たない。
同じく『無形の型』をぶつければ、相討ちには持っていけるが、それでは意味がない。
これを破ることが出来たのなら、『無形の型』の真意に近づけるかも知れない……
「クリスちゃん、まだ寝ないの?」
チヒロさんに声をかけられ、振り返った。
「ええ、少しは身体を動かさないと鈍ってしまいます」
「そうなんだ、ここで見てていい?」
「それは構いませんけど……」
ふと、一つ案が浮かんだ。
「せっかくだから、相手してもらえませんか?」
また、チヒロさんと戦えば、何か得られるかも知れない。
「ええっ!?無理だよ、そんなの!!」
「でも、記憶を取り戻すきっかけになるかも、知れませんよ」
「それは……そうかも知れないけど、剣なんて、模造刀さえ握ったことないんだよ!?」
「記憶はそうでも、身体は覚えてるかも知れませんよ?」
「……じゃあ、試すだけね。竹刀とかあるの?」
「いえ、ないので、それで」
私はチヒロさんの腰に下げてある剣を指さした。
「え、本物で!?」




