馬車での話題
「うーん……むむむ」
私が唸っていると、チヒロさんがシンシアさんに耳打ちをした。
ちなみに、手綱はセレナが握っている。
「あの、クリスさんは何をやってるんですか?」
「イメトレですわ。邪魔はしないように、極力話しかけないであげてください」
「あ、はい……」
チヒロさんはすぐに押し黙ってしまった。
どうやら、やることがなく持て余しているようだった。
「そう言えば、チヒロさんって」
「はい?」
「あだ名はちーちゃん、でしたか?」
「あ、わかります?」
「ええ、”チヒロ”からのあだ名は、”ちーちゃん”か”ちぃ”辺りと相場は決まってますわ」
「あはは、確かに」
「……シンシアさんが、愛称のことを言うのは珍しいですね」
セレナが手綱を持ったまま、会話に参加してきた。
「あら、私は別にタブーにしてる訳ではなくてよ」
「そうなんですか?」
「ええ、呼ばないだけで」
「聞いといて、呼ばないんですか……」
「単なる話題ですわ。そう思うなら、セレーナさんが呼んではいかがかしら?」
「え、でも、チヒロさんはクリスさんよりも年上ですし、ちゃん付けは……」
「あ、別に気にしませんよ」
「そうなんですか?」
「新参者ですし」
「……芸人のような事を言うのですね」




