観客
いつの間にか、周囲をギャラリーに取り囲まれていた。
「な、なに、喧嘩?」
不安そうな声が聞こえた。
「ご心配なく、ただの手合わせです。ご迷惑はおかけしません」
エル兄さんが、間髪いれずにそう言う。
な、と同調を促され、私もはい、と頷いた。
「……ガントレッド」
エル兄さんは武装をクロスから切り替えた。
手甲だが、当然ながら役割は防御ではなく、メリケンサックのような攻撃用……
周囲を配慮しての切り替えだとは思う。
しかし――
「……剣相手に拳でくるつもりですか?」
「だったら、なんだ?勝てるとでも言いたいのか?」
エル兄さんの挑発はわかっていた。
ここで熱くなってはいけない。
ラン兄さんとの手合わせを思い出し、冷静に攻め手を考えなければならない。
「……勝てないと思って、剣を握りません」
そうは言うが、半分は嘘だった。
ラン兄さんやエル兄さんのような、格上相手には半分諦めのような感情が沸き上がる。
しかし、そんな心持ちで勝てるはずはない。
私は覚悟を決め、構えを変えた。
「うん?」
「……行きます」
両手で持っていた剣を左手に持ち、左を突きだした半身の姿勢になった。
右手が自由な分、剣だけでなく、魔法も気功も使える。
咄嗟に思い付いた構えだった。




