変幻自在
エル兄さんの口許がニヤリと、吊り上がった。
「ほう。どうして、そう思う?」
「傭兵業をやってるエル兄さんが、魔法の対策をしていないとは思えません」
「それは、そうだな」
「ましてや、昨日エル兄さんが戦ったのは、魔術師だったはずです。
魔法だけでは、勝てないことは証明されています」
「そうかも、知れんな。だが、それこそお前に魔法を使わせない誘導かも知れんぞ?」
「その可能性もあります」
そう、だからこそ、私の戦い方は一つしかない。
「……来るか」
私が腰を沈めたのを察知し、エル兄さんはクロスを構え直した。
「もう、惑わされません!」
元から私の戦い方は、使える戦法の複合だ。
相手の土俵に立つ必要はないし、特定の方法にこだわる理由もない。
「『隼剣』!」
「それで、隼か!」
剣をクロスで受け止められる。
だが、想定内だ。
事前に無詠唱で放っていた二発の『エアロ』が、エル兄さんを挟撃する。
「無駄だ!」
エル兄さんは剣を受け止めたまま、クロスを回転させ、『エアロ』を空へと弾き飛ばした。
私はあえて、剣を手放した。
「『気功波』!」
「チィ!」
今度はクロスを広げて、気功を受け止められた。
しかし、剣はクロスから解放され、宙に浮いている。
私はそれを手に取り――
「『断山閃』!」
勢いよく振り下ろした。
「舐めるな!」
受け止められた気功を反射して、剣を押し返された。
「っ」
「くっ」
押し返され、距離を取って着地する。
エル兄さんの方も衝撃によろけて、追撃は出来なかった。
勝てるか、どうかはわからない。
だけど、勝機があるならこの戦法しかない。
エル兄さんの変幻自在に対応するには、私の土俵で変幻自在に攻める。
それが、唯一の勝筋だった。




