不意
「言ったはずだ。お前は悪意に鈍感だと」
「……」
「馬鹿正直に正面からばかりくると――」
エル兄さんは布を引き絞るように構えた。
「――思うな!」
そして、投擲するように、クロスを振るった。
迫るクロスを弾きかえそうと剣を振るう。
「!?」
しかし、剣は空ぶった。
エル兄さんはクロスを引っ張ることで、こちらに迫った側を引き戻して――
「あぐっ!?」
死角からの衝撃で、私は体勢を崩していた。
エル兄さんはクロスを引き戻すと同時に、
持っていた側をこちらに向けて投げていたことで死角から攻撃を加えていた。
「くっ!」
追撃を恐れて、すぐに飛び退いた。
しかし、エル兄さんにはその行動を読まれていた。
「!」
追撃は飛び退いた先に放たれていた。
咄嗟に身体を丸め、防御姿勢を取ったが、その隙間をぬうようにクロスは私の腹部に叩きつけられた。
「ぐぅっ……!」
ダメージを受けたが、その衝撃を利用してクロスの有効圏外へと後退した。
「はぁ……はぁ……」
膝をついて、息を整えた。
腹部に与えた衝撃は確実に私の呼吸を乱していた。
「……」
そんな私を尻目にエル兄さんはゆっくりとこちらに歩き、距離を縮める。
エル兄さんは呼吸一つ乱していなかった。




