一線を越えた者
「そうね……でもそれだけじゃない。
力はなくとも、人々を救った者の称号よ『聖女』は」
「では、他に何が?」
「わたしはなれなかった。
その資格を失ってしまったのよ、永遠に」
「どういう……ことですか?」
すると、リオ姉さんは自嘲気味に笑った。
「なまじ、僧侶としてだけでなく、腕っぷしにも自信があったことが災いしたわ。
……いえ、わたしが考えなしで愚かだった」
「っ……」
「人を殺めたの」
「!?……どうしてですか?」
「旅の時に襲ってきた野盗よ」
「じゃあ、身を守るためじゃないですか!」
「そうね。正当防衛だったとは思う。
でも、それで『聖女』たる資格は失ったわ。
人を救うべき『聖女』に殺生はタブー。
人はもちろん、モンスターも直接殺してはならず、
聖魔法で浄化することしか、倒す方法としては許されない。
これは、聖教会の教えでもあったのに、
わたしは大義があるからと、それを忘れて行動してしまったの」
「そんな……」
「わたしが大馬鹿だったの。
でも、自分の手が血塗られてしまったことを自覚したからこそ、聖騎士の道を進むことを選べたわ」
そこで、すっとマリィさんが入ってきた。
「……でなければ、今の学長としての立場……
聖教会内では『聖なる盾』と呼ばれる程の存在にはならなかったのかも知れませんね」




