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何故、少女は戦ったのか? 前編
「クリス、この子の傷を見てみろ」
「はい」
「わかるか?噛みあとばかりだ」
「噛みあと……」
”狼”に襲われたのなら、不思議なことではない、と一瞬思った。
しかし、考えてみると噛みあとばかりというのは違和感を覚える。
確かに狼の歯は大きな武器だが、弱点である頭部に近い分、必殺の一撃で無ければならない。
多用するのはおかしな話だ。
もちろん、本来の”狼”と違うのだから、理屈は違うのかも知れないが、
もっと多用できるはずの爪の傷が少ないことは説明がつかない。
「噛みつく、必要があった……どうして?」
「そうか。わからないのなら、教えてやる。あの”狼”は『ミバロウカ』という、魔法だ」
「『ミバロウカ』……?」
魔法というのは察しはついていた、しかし、聞き覚えのない魔法名だった。
「『ミバロウカ』自体は元々、東の国にある黒魔術だ。
この頃は東の国の文化と共に魔術などもこの国に流入しているが、まだまだ珍しい。
術者と相体することがなければ、知らないこともあるだろう。」
「はい、知りませんでした」




