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彼女がいない馬車 31
「まぁ、"そういう訳にはいかない"が」
「!?」
男はシンシアに背を向けた。
そして、そのまま歩き出した。
「え……あ……」
その行動が予想外だったがためにシンシアは言葉を詰まらせた。
それでも、声を掛けた。
「あの!」
男は足を止めて、頭だけシンシアの方を向いた。
「なんで、こんなことを!?
チヒロさんは……チヒロさんに何をしたんですかっ!?」
男は後頭部を掻くと、口を開いた。
「まぁ、ソレをそのままってのも困るか。
チヒロは封印された、そうしたんだ」
「封印……?」
「当分目を覚ますことはないだろう。勇者としての目覚めの日……魔王が復活でもしない限り」
「なっ……!?」
「どこか静かな場所で眠らせてやるといい。
洞窟の奥深くとかに、さ」
「ど、どうして!?どうしてそんなことを!?」
「……」
男は頭を戻して歩き始めた。
「……そこまで答えてやる義理はない」
そう言い残して。
シンシアは去っていく男を見送るしか出来なかった。
チヒロを破った相手だ。
戦闘などからきしのシンシアがその歩みを止めることなど出来るはずがなかった。




