1039/1085
彼女のいない馬車 26
チヒロは気づいた瞬間、剣を振り下ろした。
しかし、男はするりとチヒロの脇をすり抜けると次の瞬間にはチヒロの脇腹から血が噴き出していた。
「早っ……!」
「余計な口を聞いてる暇があるのか?」
「!」
チヒロはなりふり構わず、前転した。
次の瞬間、銃声が響いた。
辛うじて致命傷は避けたが右足に銃弾を受けた。
「ぐっ……!」
チヒロは受けた痛みを全て無視して、男の方を向き直った。
男は顔が認識出来ない中でも、冷たい目でチヒロを見下ろしていたことがチヒロにもわかった。
「はぁ……"弱いものいじめ"をするつもりはないんだ。
諦めてくれないか?そうしたら、すぐ楽にしてやれる」
「……」
弱いものいじめ……確かに男は勇者であったはずのチヒロよりも強かった。
チヒロが経験した魔王達以上に……
男は左手のガンカトラスのグリップを入れ替えた。
緑色の銃身だった。
「死にたくないって言うなら、いいよ。
"封印"してやれる。
逆にまた勇者の使命を……運命に嫌気がさしたのなら、殺して終わらせてやれる」




