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彼女がいない馬車 17
「ん……?」
男は右手のガンカトラスの銃身を宙に放ち、空中でくるくると回転させてグリップに嵌め直すという風に手元で遊ばせていた。
「失言だった、かな……?」
「あなた、やっぱり……!」
「はは、まぁ、いいじゃないですか」
男は視認出来ないはずの顔をさらに隠すように前からハットを押さえた。
「レディにとって自分は敵ですよ?
もちろん、こちらにとってもね」
「そうはいかない……!」
チヒロは剣を握り直した。
「あなたが"ワタシ"を……どこまで知ってるか、わからないけど……
知ってると言うのなら何でこんなことをするのか、
そして、ワタシが知らない"ワタシ"のことを話してもらわないといけない!」
チヒロにとって、まだ思い出せていない記憶というのは執着するに充分なものだった。
「はは、襲った手前、理由を求められるのは理解しますが、
流石に後の要求は欲張りじゃないですかね?」
そう言いながら、男はハットから手を離し、銃を構え直した。
口元には笑みさえ浮かんでいた。
「ま、いいですよ。こちらに勝てたならね」




