大斧の旋風
「あ……え……?」
思わず声に従い、両膝をついてしまった。
同時に、両手がすっと軽くなったのがわかった。
「『気功圧縮』!」
声に気付き、前を向くと盾を背負い、頭部以外を鎧で覆った大男がいた。
私からは後頭部しか見えなかったが、それが誰なのかすぐにわかった。
「あ、貴方、は……」
「『シールドバッシュ』!」
男は背負っていた盾で、気功の膜に覆われた、エネルギーの塊を空中へとはじき出した。
そして、突然盾は溶けだした、だが、男の手の中へと納まり、金属棒のような形へと変わっていくと――
「トマホーク!」
刃が現れ、円形に近い両刃斧へと変わった。
私は――あの武器を知っている。
気功によって、変形する特殊金属を内包し、剣にも槍にも斧にも盾にも――
どんな武器・防具であっても、変幻自在に姿を変えることの出来る、特殊武器。
武器でありながら、
特定の形を持たない侮蔑と畏怖から『泥棒猫』の名を付けられた、あれは――
父の鍛冶の師から譲り受けたという遺品だ。
あの人は、やはり――
「『斧技・滝登り』!」
男は大斧をこともなさげに振り上げると同時に投げ飛ばした。
直上に放り上げられた斧は回転をしながら、エネルギー体を巻き込み、遥か上空へと飛んでいき――
エネルギー体が大爆発を起こした。
そして、爆発によって雲一つもなく、澄んだ夜空から斧は舞い戻り、
男は苦も無く振り上げた手でそのまま受け止めた。
こんなことを出来る人間を私は一人しか知らない。
「エル兄さん……」
男は顔だけこちらを向いて、私の顔を確認した。
「……クリス、どうしてここにいる?」
エルグラド兄さん、私のきょうだい達の四男で、最も私と歳の近いきょうだいだった。




