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彼女がいない馬車 8
……
食後……就寝の準備を取る。
今は、馬車の中のスペースでシンシアが寝て、
警戒のために外でチヒロが寝ることにしている。
そのためになるべく馬車は寝易そうな地面の柔らかい場所だったり、草原がある場所を選ぶことにしている。
「……!」
「どうか、しましたか?」
シンシアは、既に睡眠のために"スイッチが切れた"状態に見えた。
「あー……いや、大丈夫」
「そうですか、ではおやすみなさい」
「うん、おやすみ」
シンシアが馬車に入ると、チヒロは馬車の後方を見たーー
ーー
男は足音を殺し、息を殺し、馬車を眺めていた。
やがて、二人が眠りに着くと落胆に似たため息を吐いた。
"襲う"なら、眠りが深くなってからか、時計を見る。
ただただ、その時を待っていた。
設定した時間は60分。
男にとって、酷く長い60分だった。
しかし、失敗は許されない。
全てに万全を期さなければならない。
この程度の苦痛、苦痛だと思ってはやってられない。
そして、時計の針が設定した時間を回った。




