彼女がいない馬車 1
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遡ること一日前、チヒロ、シンシア、セレーナは予定通り馬車で進んでいた。
この時点で遅れもなく、トラブルもなく順調と言えた。
厳密には積荷を狙った野盗の類いは何度も襲ってきた。
加えて、女性ばかりの馬車だ。
野盗にとってはカモに見えただろう。
しかし、そのいずれもチヒロが簡単に撃退してしまっていた。
「……暇だなぁ」
馬車に揺られながらチヒロは思わず、口に出してしまっていた。
「……あ、ごめん。手綱を任せてるのに、こんなこと言って」
「別に気にしませんわ。やることがないというのには同意出来ますし」
そう、馬車に乗ってる間、チヒロは基本的にやる事がない。
いや、厳密にはチヒロも手綱を引こうと思えば可能なのだが、
練度の問題と、移動中に襲撃を受けた際の対応のために、手綱は基本シンシアが持つこととなった。
故に、襲撃でもない限り、チヒロの出来ることと言えば、景色を眺めることと、シンシアと話をすることくらいだ。
最初の内はシンシアといくらでも話をすることが出来た。
しかし、それが数日と経つとネタは尽き、同時に二人はある結論に達した。
それは……『自分達は相性がよくない』ということだ。




