優しさの系譜
父は負け知らずの『剣聖』――
母は多くの人の命を救った『聖女』――
そんな二人には4男4女の8人の子供達がいました――
子供達も両親に負けず劣らずの才能と向上心を持ち、それぞれの得意分野で伝説の人となりました。
私はそんなすごい家族の末っ子として生まれました。
でも、私には他のきょうだい達と違って、大した才能のない落ちこぼれでした。
それでも、私が前を向いてこれたのは、一番上の兄の言葉があったからです。
ある日、才能のなさを歳の近い兄に罵られ、落ち込んでいた時でした。
「クリス、こんなところでどうして泣いているんだい?」
「アル兄さん……」
アルスフォード兄さん、
ありとあらゆる武術、魔法をマスターし、『極めし者』と呼ばれた、私の憧れの人でした。
「なにがあったんだい?兄さんに話してみなよ」
「……アル兄さん、私はどうして落ちこぼれなのかな」
「逆にどうして、クリスは自分が落ちこぼれだと思うんだい?」
「だって……私は他のみんなと違って秀でたものがないし」
「クリスは色んなことができるじゃないか。
それは秀でたものがないんじゃなくて、劣っているところがないんだよ」
「それはアル兄さんだよ。私はアル兄さんに、遠く及ばない……」
「そんなことはないさ」
「え?」
「兄さんだって最初は弱かった、でも、頑張って強くなろうとしたんだ。
同じ父さんと母さんの子のクリスだってそうさ」
「……そうかな」
「それに、クリスは兄さんや他のきょうだい達よりも強い特技を持っているんだよ」
「え?」
「クリスはね。他の誰よりも優しい。それはとてつもない武器なんだよ」
「……どうして?」
「強い者は優しくなければならない。優しさを持たなければ、真の強さを手に入れられない。
――どうしてだと思う?」
「……わからない」
「優しくなければ、守るものの為の強さを得られないからだ」
「守るものの、為の、強さ……」
「そう、誰よりも優しいクリスは、誰よりも……兄さんや他のきょうだい、父さんや母さんよりも強くなる可能性を秘めているんだ」
「誰よりも……強くなる……」
「そうさ。だから、クリスは兄さんや他のきょうだい達のようにならなくていい。
クリスはクリスだけの優しさを磨けばいいんだ」
「……わかった。私、頑張ってみる」
「うん。…………でも、本当は――」
「アル兄さん?」
「クリスのような優しい子が力を振るわなくても、済むのが一番いいんだ」
そう言う、アル兄さんの瞳は誰よりも悲しく、そして、優しい色を帯びていた――