招呼-しょうこ-
王都に着いた俺達は、冒険者ギルド本部へと来ていた。
「こちらが、今回の報酬となっております」
「ありがとうございます」
ギルド本部長から袋に入ったお金を受け取ったシャロン。
まあ、依頼自体は、村の娘達を助けて欲しい。だったから、報酬も少ないのは仕方ないことだけど。
「さて、急いで港に向かおう」
「うん、早く船に乗って故郷へ!」
エミーリア、なんか凄い楽しそうだな。故郷に帰れることが嬉しいのか。それとも……。
「おや? 皆様は御存知ないのですか?」
ん? 何のことだ?
「港で何かあったのですか?」
「はい。何者の仕業か知りませんが、王都の港にある船は全て壊されて現在、運行不可となっております」
誰の仕業かさておき、このままじゃあ、エミーリアの故郷どころか、他の大陸にも渡れない。どうしたものか。
「あの、復旧までどれくらい掛かるんですか?」
「私達も、そちらの事は専門外ですので、分かりかねますが恐らくは三ヶ月ほど掛かるかと」
三ヶ月か……それまで船が使えないのは痛いが、こればかりはどうすることも出来ないからな。
「こんなときに……じゃあ、他の港町に行きゃいいんだ。近くに無いのか?」
「それが……ここに立ち寄る冒険者様達から聞くところによりますと、他の街でも同じ事象が起きているらしく……」
なんだって? これじゃあ、八方塞がりじゃないか。どうしようか。
「くそっ! 誰か知らねぇが許さねぇ!」
ヴォーデが怒るのも分からなくはない。道を閉ざされたようなものだから。
「ここにある船は三ヶ月待てば治るんだよね? なら──」
「いえ、すぐには無理でしょう」
ああ、なるほど。復旧してもまずは金持ちから。次に一般客。最後に冒険者って感じだろう。
「で、どれくらい待つんだ?」
「恐らくは更に三ヶ月くらいかと」
つまりは半年待たなければならない訳か。厳しいな。
「どうする? このままじゃ、半年以上待つことになるぞ?」
「……まあ、仕方ねぇな。流石に半年近く経っても魔王が倒れるなんて無さそうだしな」
「そうですね。今は待つしか出来ませんし」
ヴォーデとシャロンは、待つことを選ぶようだ。まあ、その間にレベル上げるとか出来るしな。
「それはダメ! 期限は越えたらダメなの!」
エミーリアは反対のようだ。いや、でも俺達にはどうしようもないしな。あとはギルドの力に頼るしか……。
「申し訳ありせんが、私達でも船を用意することは出来ませんし、優先で乗船出来るよう取り図ることは出来かねます」
まあ、そうだよな。しかし手詰まりになった。どうすれば……。
「(……どうし……せっかく……ったのに……)」
エミーリアが小さな声で何か呟いている。悲しそうな表情から察するに、帰れないことに落ち込んでるのだろう。
どうにかしてあげたい。だが、俺達にはどうすることも……。
バン!
「黒髪の剣士を探している。どこにいるか知っているなら、答えて貰おう」
なんだ? あの兵士。黒髪の剣士って誰だ?
「申し訳ありせんが、ここはギルドですので、兵士の方は……」
「私は国王陛下の命で、ギルドまで来ている。隠し立てはギルドであろうと許されるものではないぞ」
王の命令で黒髪の剣士を探している? なんか、物騒だな。
「分かりました。それで黒髪の剣士について、他に何か特徴はございませんでしょうか?」
「うむ……」
兵士が困ってるな。どうしたんだ?
「どうしましたか? 黒髪の剣士だけですと、特定が難しいのですが」
「……私は国王陛下からグラナート村の件で関わった剣士を連れてくるよう命を受けただけで」
兵士も命令されただけ詳しい話は聞いてないということか。
グラナート村と関わりのある黒髪の剣士か……そんなのいたかな?
「それって……」
「……だよな」
ん? シャロンとヴォーデがこちらを見ている。いや、俺じゃ無いと思うけど。国王に呼ばれる程のことしてないし。それに剣は使うけど、剣士ではないし。
「それで、その黒髪の剣士を探してどうなされるのですか?」
「それは私が知ることではない」
やれやれ。それじゃあ、黒髪の剣士が誰だか分からないじゃないか。
「とりあえず、黒髪で剣を使うなら行っても問題ねぇと思うけどよ」
「うん、そうだね」
何故、二人して国王の所へ行かせたいのか。よく分からない。これで違いました。ってなったら、どうするんだろうか。
「エミィ達は、そんな暇はないの。勝手に巻き込まないで」
「ですが、黒髪の剣士という点は合っていますので、断ることもできませんね。ギルドといえど、国王陛下の命には逆らえませんから」
これは行くしかない状況のようだ。面倒だな……。一人で行くの? 気が重いな……。
「私はギルドの仕事で忙しいので行けません」
「俺も断るぞ。俺、ああいう場所はちょっとな……」
ギルドの人間だけでなく、ヴォーデもか。つれないな……。
「それなら私──」
「じゃあ、エミィが一緒に行く!」
なんか、シャロンが言いたげそうだったけど……。エミーリアが来てくれるのか。それはそれでありがたい。
「あの私──」
「では、城へ案内するから、付いてこい!」
なんか、偉そうだな。この兵士……。
「頑張れよ」
「こちらでも船の件はなんとかしてみます。そちらは頑張って下さい」
「…………」
男二人はともかく、シャロンは何故黙っているのだろう。不満そうな顔してるし。
「サトル? 早く行かないと怒られるよ?」
「あ、ああ」
後でシャロンに直接訊いてみよう。とりあえず今は、兵士に付いていって城へ行かないとな。