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依頼1~下着泥棒

 今日も事務所は、電話一つ鳴り響かない。まさに、閑古鳥(かんこどり)が鳴いていた。

「所長~!いくら非営利活動法人つったって、これじゃあ何かボランティア活動でもしていた方がマシですよ~!!」

 遠藤(えんどう)一正(かずまさ)は、このNPO探偵事務所~(あかつき)に来たばっかりの新人だが、そのキャリアは、結構すごいものを持っていた。


「そもそも、NPO法人の探偵事務所って、法律的に大丈夫なんですかぁ~?」

 遠藤は、入所以来まだ一人も依頼人が来ないこの現状を考えると「暁」の未来が全く期待できない物足りなさのようなものを常日頃感じていた。


「あのねぇ、遠藤君。考え方をちょっと変えれば、な~んもしないでそこそこのお給料は、ちゃ~んと頂けるんだから。こんな楽な仕事ってないよ~!」

 所長の兼松(かねまつ)一郎(いちろう)は、デスクの上に安室(あむろ)奈美(なみ)()の写真を並べて、その上にボールペンを転がす意味不明な動作を続けていた。


「ミチルちゃん、コーヒー一杯入れてくれる?」

 所長は、安室奈美恵遊びに飽きたのか?事務員の蝦夷(えぞ)ミチルにコーヒーをねだった。

「所長、コーヒーくらい自分で入れてくださいよ!」

 ミチルは、すかさず所長のお願いを却下した。



「それで、今日約束していた依頼人ってのは、何時頃来るんですか?」

 遠藤は、やっと初めての依頼人が来ることは知っていたけど、どうせこんなところに依頼に来るのは大した案件じゃないと考えていた。


「もうすぐ来ると思うんだけど……」

 所長も初めての依頼人が、どんな人でどんな依頼をしてくるのか?少しだけテンションが上がっていた。


「コンコンッ!!」

 ドアを叩く音が、確かに聞こえた。事務員のミチルがドア越しに、

「は~い!どちら様でしょうか?」

 ミチルの声は、なんだか素っ頓狂だった。

「依頼の件でお伺いしました。山田です……」

 少し元気のない若い女性の声だった。

「こんにちは!どうぞ、中へ!」

「は、はいっ!それでは、失礼します……」

 女優さんのような綺麗ないでたちの若い女性が、事務所に入ってきた。



「それで、ご依頼の内容なんですけど……何でしたっけ?」

 所長は、歳のせいか?電話で依頼を受けた内容をド忘れしていた。


「あの……私の下着が、最近どんどん知らないうちに減ってきていて……」

「あぁ~!はいはい、思い出しました!下着泥棒の件ですね!」

「そうなんです……実は私、モデルのお仕事をやっていて……」

「そうですかぁ、まあ、それだけお綺麗なら納得です!」

「最近、雑誌とかイベントとかテレビのお仕事とかもちょくちょくいただくようになってから、仕事を終えてマンションの部屋に帰ると何というか……雰囲気が変だなあ?と思いまして……私、下着は部屋干ししかしないんですけど……気が付いたら下着の数が明らかに減っていって……でも警察に頼むのは、ちょっと恥ずかしくて……」


「なるほど。そうだったんですか。犯人の心当たりは、ありますか?」

「いえ、それがこれと言ってないんです……」

「全くない……ですか?」

「あっ!でも、強いて言えば……」

「はい、誰かいるんですね?」

「マンションの隣に住んでいる男性が……少し、怪しいんです」

「どんな風に怪しいんですか?」

「私、部屋で猫を飼っているんですけど、その猫がベランダ伝いに隣の男性の部屋に入ってしまった事が何度かあったんです」

「ほおほお、それで?」

「その度にわざわざその猫を抱っこして私の部屋まで届けに来てくれたんです」

「ん~?いい人じゃないですか?」

「その時は、確かに優しそうな方だなあと思いましたけど……」

「その時は?その後、何があったんですか?」

「それ以来、何かにつけて私に付きまとうようになったというか……」

「例えば?」

「肉じゃが作りすぎちゃったから食べて下さいとか猫の美味しいエサを買ってきたので、どうですか?とか。最初のうちは、申し訳ないから頂いてたんですけど。回数を増すごとにめんどくさくなってきてハッキリ言ってやったんです。迷惑です!って……そしたら、急にキレ始めて……」

「何かされたんですか?」

「言葉でいろいろまくしたてられて、最後に言われた一言が……」

「はい、何と言われたんですか?」

「ここに住んでいられないようにしてやる!って……」


 筒抜けの事務所内で話をずっと聞いていた遠藤一正は、すました顔で二人の会話に割り込んできた。

「あの~、兼松所長……」

「あん、何だよ!今面談中だぞ!」

「僕、犯人分かっちゃったんですけど……」

「はあっ!?」

 所長では無くてミチルが、素っ頓狂な声で一正をキレ気味に睨みつけた。

「いいっすか!?話に入っても……」

 一正は、そう言いながら依頼人の山田という女性の元へ近づいた。

「お前、今の話で何が分かったって言うんだよ?」

 兼松所長も少し面食らった感じで一正に問い詰めた。

「結論から言いますと……犯人は……猫。ですね!」

「はい!?」

 山田という依頼人の女性が、初めて語気を荒げた。

「猫ってうちのブラピの事ですか!?」

「ハハッ、ブラピって……あっ、すみません!」

 所長は、依頼人の猫の名前に思わず吹きだしてしまった。

「はい、その……ブラピ?ちゃんが犯人ですよ!」

「意味わかんないっ!!」

 一正のふざけた推理に依頼人の山田という女性モデルは、完全にキレてしまった。

「遠藤。じゃあ、盗まれた下着は、どこにあるんだ?」

「はい。まあ、多分、隣の男性の部屋の中にしこたま!」

「なんでやねん!犯人は猫だって言ったじゃないか!」

「いや、だから猫が、部屋干ししてある下着を少しずつハンガーから取って口でくわえてベランダ越しに、ほぼ毎日隣の部屋に持って行ってたんですよ!」

「どういう理屈だ!?」

「ブラピちゃんは最初、好奇心からいつも鍵が開いていた窓を開けてベランダ越しに隣の部屋に忍び込んだ。ここまでは良かったんです。問題は、実はその隣の部屋には恐らくブラピちゃん。名前からして多分オス猫ですね?が気に入ってしまったメスの猫がいた。尚且つ隣の部屋の男性に優しくされた上に何度も美味しいキャットフードやらを貰っているうちにブラピちゃんは、もう一回隣の部屋に脱走すればまたメス猫にも会える。また同じ経緯(いきさつ)で優しい男性に美味しいキャットフードも貰える。ってなっていったんでしょう。ただ、手ぶらじゃ申し訳ないと考えたブラピちゃんは、山田さん。あなたの下着をくわえて手土産代わりに隣の部屋へ行く度に持っていった」


「そんな……ふざけないでくださいっ!!」

 このハチャメチャな一正の推理に依頼人の山田という女性は、さすがに怒り心頭になった。

「一正。それじゃあ隣の部屋の男性は、ほぼ毎日ブラピちゃんが持ってくる山田さんの下着を返したくてもモノがモノだけに返しずらくなって……」

「はい、その代わりに肉じゃがやらキャットフードやらを持って行って山田さんと少しでも親しくなってから真実を話して全部下着を返そうと努力していたんです。多分、紙袋かなんかに入れて大事に取ってくれてると思いますよ。隣の男性は!」


「あの……私……」

 依頼人の山田という女性は、そこまで話を聞いてから急に立ち上がった。

「今からマンションに戻って確かめてみます!一緒に来ていただけますか!?」




「はい……実はその通りでして……うちも猫を飼っています。メス猫です。ブラピちゃんがほぼ毎日、口にくわえて持ってくる山田さんの下着をどうやって返そうかと……正直、毎日ノイローゼみたいな感じに……」


「下着は?」

 同行した一正が、橋本というその男性に聞くと、

「デパートの紙袋の中に全部入れてあります。今、お返しします!」


「山田さん、隠していてすみませんでした。それと、この前はあんな汚い言葉をあなたに向けて吐き出してしまって……」

「いえ、とんでもない!まさかうちのブラピが犯人だなんて。こちらこそ申し訳ありませんでした!」


 暁の最初の依頼であるこの事件は、新人の遠藤一正の一見素っ頓狂で滅茶苦茶な推理通り無事に?解決した。



「お~い!遠藤一正~!!」

 兼松所長と蝦夷ミチルが市役所の午後五時を知らせるベルを聞いた直後、事務所で居眠りをしていた一正を呼び起こした。

「これから三人で飲みに行くか!?」

「おっ!いいですねぇ~!行きましょう!!」


 NPO探偵事務所~暁の最初の依頼は、遠藤一正の活躍で無事にスピード解決を果たした。今度は、どんな依頼が舞い込むのだろうか……?乞うご期待!


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