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人生屋  作者: 城戸 慎太郎
ヒヤシンス
7/21

2-1.5 その者

この中での天使に関する情報は既存の情報と自作のモノを複合しています。


彼女を送り出し、楽斗は席を立つ。

 表の喫茶店へ戻ると

「やっほー、おっひさ~」

 と、女子高生のごとき軽い声音が聞こえてくる。見れば、彼女座っていた席の左隣に一人の少女が座ってひらひらと手を振ってきていた。

 僕は思い切り嫌そうな表情を浮かべながらため息をつく。

「ちょっと~、お客様に対して失礼じゃない~?」

「普通のお客様には絶対しないですから、ご安心を」

「私にだけってこと~?それって愛~?愛だったりするの~?」

「んなわけないでしょう……まったく」

 この人との会話は疲れる上に僕に頭痛を与えてくる。よくもまあここまで人を小馬鹿にしたような口調が出来るものだと逆に感心してしまう。

「まったく、これで天使なんだから達が悪い」

「うふふ~、そうでしょう~?」

「今のを褒め言葉として受け取るってすごいなあんた!?」

今更ながらだが少女の姿を説明すると、透けるような肌と純白のワンピースに両方合わせて四つの翼を背中より生やした金色のストレートを揺らし、ニヘラとした子供のような、だが造形が神がかり的なために神秘さを帯びたオーラがある。

そう、眞壁簗の心象風景に現れた自称天使の少女であり―――彼女をこの人生屋へと導いた首謀者であり元凶。

その名は

「それで、なぜ彼女をここへ導いたのですか?智天使ヘルヴィムが一柱―――ベコイル」

 天使階級で最高位の熾天使の一つ下。主神によって追放されたアダムとエバの命の木へと続く道の守らせるために置いたとされる天使。

 その中でも彼女は、1000年任務を終えて熾天使へと昇格する直前の準天使と呼ばれる部類に入っている。準天使は神からの試練を与えられそれをこなすことで熾天使へとなれるのだが、べコイルの場合は少し試練の経路が違い

「今回は神の認めた天使の器の勧誘を3人完遂することよ」

 毎回違う試練が与えられる。そしてそれは大概、無理難題なのである。

 だいいち天使の器など数百年に一度現れれば良い方だ。

 つまり彼女の主神様は、彼女を何としてでも熾天使にしたくないということだろう。

「もう神様ったら、器が現れても教えてくれないから知念通使っちゃった」

「ん?“知念通”って確か―――」

「うん、簡単に言ったら【読心術】」

「……僕の記憶が正しければ“知念通”って熾天使しか使用できなかったと思うんですが?」

「ハハハ!どうだったかっしら~」

 あ、これ完全に確信犯だわ、知ってて使ってるわ……。

 彼女の主神様が何故熾天使へ上げたくないのかという理由。それがこれ、神をも出し抜く頭脳による謀。ベコイルはそれが突起して優れている。さらにそれには絶対に被害者が発生してしまう。今回はそれが僕と簗嬢だったというだけ。

「だとしても、ここにそう簡単に此処へ送り込まんでください。ただでさえ地球の方たちは認識の違いのせいで成功率が低いんですから」

「しょうがないじゃ~ん。器がそこに現れた~どこだろうと勧誘していかないと~。これが最後の試練だからさ~」

 ……あー、だからか。主神様の意図がやっと分かった。

 主神様は恐らくベコイルが“知念通”を使用することを察知して、知られても彼女が諦めるであろう場所の器をわざと見つけた―――いや、もしかしたら作り出したのかもしれない。それが出来るのが神という存在だから。

 でもこのベコイルはそれさえ覆し、天使へと勧誘するための難関を越えようとしている。―――人生屋の力を使って。

「はあ……。まあ、今回に関しては彼女を自分の手で送れるようにしてくれたこと、感謝します」

「でしょでしょ~?ま、これでも天使だか――――」

「―――が」

 ドン!とカウンターを殴りつけるように叩きながら彼女を睨みつける。

「これ以上神の遊戯を利用するなら――――――【神殺し】の名において、貴様を消す」

「う、ウィス……」

 本気の殺意に燃え上がる楽斗の視線に身震いしながら敬礼してくるベコイル。

 信じられるかどうかは、これからの行動次第。とりあえず今はこれでいい。これ以上神の遊戯の被害者が出ることは人生屋の収益が減ることよりも優先させなければならいから。

「コーヒー飲みますか」

「あ、はい。お願いします」

 口調が変わっているのは恐れているからか、演技か……どちらにしろ、お金を払うならばそういうことを抜きにして良いモノを出すのが商人というものだろう。

「それにしても驚きました。貴方がその二つ名を自分から名乗るなんて」

「君たち天界の人間を脅すときにこの名前は効果的ですから。使えるものは使わないと。そう思って邪神を殺してまで得た二つ名です」

「ははは……その気分で殺された神様は形無しだなぁ……」

「何か?」

「なんでもないですッ!!」

 また威圧しながらコーヒーを差し出すと、受け取ってすぐさま口をつけた。

 威圧する気はあったけど、そこまで怖がることはないんじゃないか……?あ、もしかして

「手伝ってくれたんですか?【マルコシアス】」

 脳内で呼び掛けると、同じように頭の中に声が響いてきた。

『ああ、主のオーラに炎を乗せただけだが。あの天物は好かん』

 表情は見えないがムスッとしているのが声音だけでも分かる。それに「ハハッ」と短く笑う。

「相変わらず天使は嫌いですか」

『当然だ。我々ソロモンの眷属を封じたのは奴らだからな』

「そのおかげで僕は君たちに力を借りることが出来ます」

「……それはそれ、これはこれじゃ!」

 そこでプツリとマルコシアスの声は切れた。照れて切れるって、面白いなぁやっぱり。

 意識を現実へ戻すと、首を傾げたベコイルがこちらを窺うように見てきていた。ニヤッと、自分的には親しみをもった笑みだったはずなのだが、何故かまた震え上がったベコイルは視線を逸らしながらカップの中身を飲み干していた。

「それじゃあ帰ります」

「待たなくていいのかい?」

「はい。扉は開いておくので通してもらえれば」

「ほお?僕を顎で使うと」

「だ、だからチップを追加で払ったじゃないですか!?」

「冗談だよ。分かってるから安心しなさいな」

 この状態のベコイルはいじりがいがあるな。顔を青くしながらはあと息を吐き、歩を扉へと向ける。

 扉の取っ手に触れながら

「インベクト、空」

 と言うベコイルの声に呼応するように扉の名札が着いた部分がスライドし、青い札に天と書かれたモノへと代わる。

「それじゃあ、お邪魔しました」

「あ、そうそう」

 体を半分扉から出した状態のベコイルに

「今の会話、全部あの人に筒抜けだから」

「なッ!?――――」

 変な声が出たかと思うと、その体を光る何かがわしづかみにし外へと引っ張り出す。

「ちょ、やだな~冗談ですって~……え?演技はお見通し?あ、え?それはあの~……ちょちょちょそれは本当に冗談抜きで死ぬから死んじゃいますから!?こ、この裏切者おォォォォォォォォォォォォォ―――――」

 扉に向けて「南無……」と両手を合わせながら自業自得だよとほくそ笑む。

 名札が変わった扉を見ながら、「よし!」と気合を入れる。

「僕も準備、始めますかね」



白羽楽斗についての説明はまた他の話でやるので少々お待ちを。

あと、ゴールデンウイーク中の完結は無理だと悟りましたのでゆっくりやっていきます。



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