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第5話

案内された部屋は二階にあった。広さは十畳ほどだろうか。屋敷の大きさからすれば決して広いとは言えないのかも知れないが、父とふたりで安アパートに暮らしている柾には広すぎる印象だった。

広くて落ち着かないし、それに静か過ぎる。

「お部屋の内装はね、ぼっちゃまがお選びになったんですよ」

バルコニーに面した窓にカーテンを引きながら琴枝は笑った。

部屋の明かりを点けてしまえば、外はもう真っ暗だ。

言われて見た部屋の内装は、落ち着いた北欧風である。

しかめっ面したあの人が選んだにしては可愛らしい。

「…この花は?」

ふと、ベッドサイドに飾られた花が目に留まった。

笹に似て筋ばった、けれど笹よりも随分太い葉の生えた茎から、細長い花が釣鐘のように下がっている。白い花は先端が淡く緑がかっていた。

「アマドコロね。それもぼっちゃまが。…酷くこだわって選ばれたようで、花屋の若い衆が大層困っていたようですよ」

「…この季節の花じゃないですもんね」

「柾さんは花がお好きなの?」

「…そうですね。好きです」

「それは良かった事…」

頷いて、琴枝はにっこりと笑った。

宗隆をぼっちゃま、と心安く呼んでいるという事は、おそらく彼女は幼い頃から彼を知っているのだろう。

「あの、稲村さん…」

「琴枝で結構ですよ、柾さん。どうなさったの?」

「…明楽さんてどういう人なんですか?」

琴枝は考える素振りで少し首を傾げると、柾の目を真っ直ぐに見つめた。

「あの方はとても優しい方ですよ」

その声には、穏やかだがどこか有無を言わせぬ響きがあって、柾はそれ以上問いを重ねる事が出来ない。

「お夕食は御一緒なさるそうですから、知りたいことは直接お訊ねになるといいですよ。…その方がぼっちゃまも喜ばれるでしょうからね。…ぼっちゃまを待っている間、わたくし達はお茶でもしていましょう。支度を手伝ってくださる?」


その夜、結局宗隆は帰ってこなかった。

忙しい、というのは何の誇張もないただの事実だったようである。これだけの屋敷を維持、管理できるだけの収入があるのだから多忙なのも仕方がないのかも知れない。

柾は琴枝と夕食を食べ、用意されていた寝巻きを借りて眠った。寝巻きについてはゲスト用に常から用意されているものだということだったので、遠慮なく借りる事にしたのだった。

琴枝は普段は夜には自宅に帰るそうなのだが、柾がこの屋敷に滞在する間は終日屋敷に詰めてくれるそうだ。

それで、柾の気分は随分楽になった。

少なくとも、知らない男とふたりきりで住むという状況に陥ることはないようだ。

アマドコロの花言葉には「ちいさな思い出」というものがあります。

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