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第1話

それは二月一日、バレンタインデーまであと二週間という晴れた夕方の事だった。

「既に父君から聞いている事と思うが」

学校から程近い路上である。

黒い高級車で乗り付けてきたその男は、車から降りるなり柾の前に立ち塞がった。

クラスの女子の中では一番に背の高い柾をして、見上げねばならぬ程の長身。高級そうなスーツにピカピカの革靴、髪は額も露に一分の隙もないほどきっちりと撫で付けられ、濡れたような艶をはなっている。

顔立ちは整っていると言っていい。

だが如何せん角度が角度だったために、何だか鼻息の荒い人だな、と柾は思った。

「今日から二週間、君の身柄を預かる事になっている。…乗りなさい」

ぽかんとしている柾を余所に、男は助手席のドアを開けて促した。

「…いや、乗るわけないよね」

我に返った柾は、思わずかばんを胸に引き寄せて後退る。

知らない人についてっちゃいけません、なんて今日幼稚園だって知っている。

「…な」

男はその秀麗な面を歪め、考え込むような素振りで指先を額に当てた。

「まさかとは思うが、君は何も聞かされていないのか?」

「…何も、とは?」

もう一歩、後ろに下がりながら柾は訊ね返す。

そんな事をしている間に逃げればよいものを、それが出来ないのが神崎柾という少女である。誰に似たのか、お人好しなのだ。

男は溜め息をついて、口を開いた。

「…君の父君が今日から二週間の海外出張に出られるという事、その間君を私の家に預かる事になっている、ということ等だ」

「…はぁ」

間の抜けた息を吐いて、柾は今朝家を出た時の事を思い返した。

大抵の場合二人一緒に家を出るのだが、そういえば今日は柾が先に家を出たのだったか。柾を送り出すその時にも、父に変わった様子は無かったように思う。それとも柾が気が付かなかっただけで、父は何かを言おうとしていたのだろうか。

…うん?

いや、ちょっと待って。

「あなたの言ってる事が本当だって保証は…」

「勿論本当だ」

柾の言葉を遮るように、男は鋭い声を上げた。

「疑うのなら今ここで父君に確認をとってくれ…」

乞うような響を持って落とされたその声に、柾の気持ちが僅かにゆるむ。

「…そもそもあなた誰なんですか」

言われるままに携帯電話を取り出しながら、柾は独り言のように呟いた。

父の友人?

それにしては少し年が離れているように見える。

だとしたら後輩とか?

「私は明楽宗隆だ」

「…いや、そういう事を聞いてるんじゃなくて」

「わかってる。いいから早く電話しろ。私はあまり気が長い方ではないんだ」

「…警察を呼ばれたいんですか」

思わず柾の放った一言に、男は黙り込んだ。

普段から命令することに慣れているのだろう事は、その態度から明らかである。身につけているものから判断しても、態度に見あった社会的地位にあるには違いないのだろう。

だが、そんな事は柾には関係ない。

彼女の一言は、今この状況において彼が柾にとって不審者以外の何者でもないとい事を知らしめるのに有効だったようである。

「…君はなかなかいい性格をしている」

「どういう意味ですか」

「しっかり者だと褒めている。君を妻にする男は果報者だな」

「妻!?」

やっぱり110番通報したほうがよくないか?


次回 電話で父が語ったのは━━。

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