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エピローグ
過ぎ去った時間を惜しむでもないけれど。
……花はまだ咲いているのだ。
愛でずに枯らすのは花に対する侮辱というものだろう。
そんな言い訳のもとに少女のいた部屋を訪れた宗隆は、ベッドサイドの一輪挿しの下に小さな紙が差し込んであるのに気付いた。
ノートを千切ったらしい素っ気ない紙が二つ折りにしてあって、その端を一輪挿しが押さえている格好である。
飾り気のないあの娘らしい所業だと宗隆はふ、と笑みをこぼした。
中にはこれも素っ気なく、だが丁寧な字で『お世話になりました』と書いてある。
そのあとは箇条書きで宗隆に対する小言が書き連ねてあった。
おそらくは二週間の間思っていたけれど言えなかった事をつらつらと並べたのだろう。
その最後は、髪は下ろしていた方がきっと素敵だと思います、と結ばれていた。
「むく犬のようだと言ったのは君だぞ…」
苦笑とともに、宗隆はその文字をそっと指先でなぞった。