第11話
三連休明けの火曜日。
柾を迎えに来たのは宗隆ではなかった。
「……あれ、うどん屋さんの」
軽自動車に乗って現れたその人はにっこりと笑って頷く。長めの髪がさらりと揺れた。
「先日はご来店ありがとうございました。ちゃんと挨拶出来なくてごめんね。俺は宗隆の友人で佐久間愛斗といいます。宗隆に頼まれて君を迎えに来たんだ」
「それは…わざわざすみません」
恐縮して柾は深々と頭をさげる。仕事もあるのだろうに、申し訳ない事だ。
もっともそれは宗隆についても言える事だが。流石に仕事を抜け出すにも限度というものがあるだろう。
「君が謝らなくてもいいんだよ。もとはといえば、宗隆の我儘が原因なんだから。俺たちはそれに巻き込まれてるだけ。それで罰があたったのか、職場で倒れたらしいんだよね、アイツ」
「倒れた!?」
「それで君を迎えに行けなくなったって俺に連絡があった訳。…大丈夫だよ。自分で電話して来られるくらいだから、君が心配する程の事じゃない」
驚いている柾に、愛斗は微笑して見せた。
「今は家で休んでいるそうだから、早く帰って顔を見せてやって。それが一番の薬だろうからさ」
愛斗に促され、柾は軽自動車の助手席に乗り込む。
「佐久間さんはあの人と長い付き合いなんですよね…?」
走り出した車が大通りに出た所で、柾は口を開いた。
前を向いたまま、愛斗は軽く頷く。
「宗隆から聞いた?高校の時からだから、随分な腐れ縁だよねえ…」
「明楽さんて、もしかしてクセっ毛だったりします…?」
おそるおそる尋ねた柾に、愛斗は楽しそうな笑い声を上げた。
「よく気付いたね。…そうなんだよ、アレでアイツ気にしててさ」
「だからあんなにガッチリ固めてるんだ…」
「そうそう。言っちゃ悪いけどあんまり似合わないよね」
「そうですね」
「…でも若くして社長なんかやってると仕方ないのかも知れないけど。あんまり若々しくてもなめられちゃうもんね」
そう言って微笑む愛斗こそが、見た目の若さ故に苦労をしているのかも知れない。
柾は同意するでもなく笑って窓の外へ視線を投げた。