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プロローグ
物語の主人公に、憧れたことはあまりない。
主人公側の正義はいつも綺麗事にしか見えなかった。
独善的で、多角的ではない。
いつだって、私が憧れていたのは。
傷を負った悪役だった。
物事には多面性がある。
彼女の正義が、私の正義でないように。
私の正義が、彼女の正義でなかったように。
物事には多面性がある。
彼女の言いなりにならない私が、彼にとっての悪であるように。
自分を苛む者を良しとしなかった私が、彼女の言いなりにならない私が、彼によって刺されている現状は私にとっては悪だけれど。彼にとっては正義なのだ。
焼け付くような鋭い痛みと急速に失われていく体温。
最後に浮かんだのは家族への思い。どうか悲しまないで欲しい。
怨まないで欲しい。
ひとしきり、泣いたら。
どうか、生きて。
何か音が聞こえる。
何を言っているのかは分からない。
金縛りにあった時に聞こえる声のような聞こえ方をしている。
目を開けているはずなのにほとんど何も見えない。
何故だろう。
声を出そうとして口を開く。
口から出たのは赤子の泣き声だった。
読んでくださりありがとうございます。