表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/42

第41話 死にゆく者たち


「ト……」


 何かが聞こえる。


「……スト」


 聞いたことのあるような声が。

 ずっと聞きたかった声が。

 

「ミスト!」

「ぐぁっ!」


 金酒の団員が一人、そこに倒れた。


「ミスト、しっかりするにゃ!」

「あーちゃ……ん?」


 まさか。

 死んだんじゃなかったのか。


「しっかりするにゃミスト、まだ戦争は終わってないにゃ! 何そこでぼーっと寝ころんでるにゃ! さっさと起きるにゃ!」

「あーちゃん……生きて……」

「勝手に殺すにゃ!」


 あーちゃんは二本のククリナイフを投擲し、金酒、獅死の団員を切り裂いていく。


「お前がここでしっかりしにゃくてどうするにゃ! 頼りにしてるにゃミスト!」

「……あーちゃん」


 俺は立ち上がり、あーちゃんの背中側に立った。

 背中合わせになり、敵の攻撃を捌く。

 よく見てみれば、あーちゃんの体も傷だらけで、裂傷や打撲の跡が見える。

 相当戦ってきたんだろう。


 無事で良かった。

 無事で、良かった。


「あの人は!?」


 突如として思い出す。

 金酒と獅死の団員が人質に取っていた人たちはどうなったのか。

 俺はすぐさま首を巡らせた。


「ミスト、本当に百点。いや、一万点だよ。今までよく頑張ったね」

「今回だけは百点をあげてもいいかもしれないなの」

「ミストさん、こっちは大丈夫です!」


 アーシャ、ミーシャ、ティラルアの三人が、人質を解放していた。

 

「皆……」


 全員、生きていた。

 俺のパーティーメンバーは全員生きていた。

 マスターこそ絶命したものの、他の皆は、まだそこにいた。まだここにいた。


「あーちゃん!」

「いくにゃ!」


 俺たちは禁酒と獅死、魔獣を蹴散らす。

 斬って斬って斬って斬って斬って斬って。


「ソニックブーム!」

「ひるむなお前らぁ!」


 俺は護。あーちゃんを守る。皆を守る。

 もうこれ以上の犠牲は出させない。


「背中ががら空きだよなぁ!」


 背後から、戦斧が振るわれた。

 俺の眼前が、一瞬にして、鉄の塊だけになった。


「あ……」


 ヤバいかもしれない。


「ミストーーーー!」


 ティラルアが俺をかばうようにして、飛び込んできた。


「あ…………」


 吹き出る血しぶき。

 鉄の塊だけだった視界は一面赤に染められる。


「おい……」


 戦斧はティラルアを袈裟斬りにした。


「おい!」


 ティラルアは虫の息だ。


「ごめんなさい、ミスト、私……」

「うわあああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!」


 まただ。また、死ぬ。

 俺の仲間が、また死ぬ。

 俺は戦斧をふるう戦士にソニックブームを浴びせ、両断する。


「ティラルア! ティラルア!」


 まだだ。まだ対処法はあるはずだ。

 ある、まだ大丈夫だ!



「アイテムボック――」

「よそ見してんじゃねぇよ!」

「ぐっ!」


 俺の後頭部に衝撃が走る。

 多すぎる。敵が、多すぎる。


 ティラルアをそっと置き、斬り殺す。


「死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」


 多すぎる。

 魔獣が。獅死が。金酒が。

 襲い掛かってくる。


「ミスト!」


 あーちゃんがふらふらとした足取りで、俺の下まで来た。

 そして、倒れる。


「あーちゃん……!」

「ごめんにゃミスト、私ここまでかも」

「諦めるな!」

 

 俺は大量の敵を捌きながら、あーちゃんとティラルアを守る。


「死ぬな! 死なないでくれ皆!」

「ごめんにゃ」

「止めろ!」


 あーちゃんが。ティラルアが。

 

「ミスト、これ……」


 あーちゃんが自前のククリナイフをこちらに投げてきた。


「あーちゃん! 守れ! 自分を守れ!」


 俺はあーちゃんにナイフを返す。


「ミスト!」

「私も!」


 アーシャ、ミーシャがやって来る。


「あーちゃんとティラルアを!」

「飲め!」


 アーシャがティラルアに回復薬を飲ませる。

 ティラルアの口からこぼれていく。効果が薄い。出血の量に回復薬が追い付いていない。


「ぁ」

 

 アーシャが後ろから斬られる。


「くそがああああああああああぁぁぁぁ!」


 殺す。

 斬って殺して斬って殺して斬って殺して。


「ミスト、もう二人しか残ってない……」

「ミーシャ、諦めるな!」


 もうそういうことしか出来ない。

 俺とミーシャは二人、背中を預け、交戦する。

 真ん中に瀕死のあーちゃんたちを置いて、交戦する。


「ミスト……」


 ミーシャが、倒れた。

 

「死ねよなぁ?」


 男の攻撃がミーシャの首を跳ねかける。


「お前が死ね!」


 俺は男の首を刎ねた。

 無理だ。

 耐えられない。

 俺一人なら逃げられるかもしれないが、仲間を守れない。


「止めろ!」

「あぁ?」


 俺を囲んでいた男たちに、小石が投げられた。


「それ以上するなら許さないぞ……!」


 ぶるぶると震えながら、子供がこちらを向いていた。

 ティラルアたちが救助した人質だった。


「何をしてる! 早く逃げろ! なんで逃げない!」

「お兄ちゃんたちを置いて僕だけ逃げられるものか! 僕が……僕が相手だ! お兄ちゃんたちをいじめるな!」

「なんだぁ、てめぇは」


 男たちの視線が人質に移る。


「お前から死んどけやぁ!」

「……っ!」

 

 ナイフが投擲される。

 少年の胸に、いともたやすく刺さる。


「かっ……」


 ひゅうひゅうと無残な呼吸を漏らし、少年はその場に倒れた。

 

「雑魚が」


 がははははは、と笑い声がする。

 声の主を殺す。

 別の男がやって来る。

 殺す。

 来る。

 殺す。

 来る。

 

 ティラルアの命もいつまでもつか分からない。少年はどうなった。俺はどうすればいい。あーちゃんはまだ生きてるのか?

 ぐるぐると、ぐるぐるぐると考えがまとまらない。


「おーい」

「…………」


 それはまた、聞いたことがある声。

 もう二度と聞くことが出来ないと思っていた声。


「ミストよぉ、私を忘れんなよなぁ」

「マスター…………?」


 マスターが少年に回復薬を渡し、こちらを見ていた。


「何とか間に合ったぜぇ。ヒーローってのは、遅れてくるもんだよなぁ?」


 マスターがにやりと笑った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ