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第38話 終わりの始まり 2



「それでな、【獅死】の連中がやりよったんや。魔物を街に解き放った。どうやら魔物をギルド内で多数飼育しとったらしくてな。さっきお前が殺した魔物も【獅死】の抱えとった魔物や。俺はたまたま襲われただけやけどな、はは」

「…………あ…………ああぁ……」


 あまりにも突然の戦争の勃発に、話に入っていけない。

 

 そういえば、五日ほど前からマスターが食料を届けてくれなくなったが、どうせマスターのことだから面倒になって届けるのを止めたんだと思っていた。


 盗賊スキル【絶食】を習得していたので五日の絶食は訳なかったし、水は近くの井戸から摂取していたからとくに問題はなかったが、マスターが来なかったのは戦争を止めるために……?


 郊外というのも憚られる僻地で修練をしていたので、街の異変にもマスターの異変にも全く気付くことが出来なかった。


 よくよく目を凝らし、木がうっそうと生い茂る森の方を見てみると、うっすらと火の手が上がっているのが分かった。


 ヒイロは構わず、話を続けた。


「せやから、ミスト、お前はどの体制にくみするんかはよ決めろ! 仲間なら一緒に行動するぞ! この街から逃げたいならはよ逃げろ! もうここはあかん。おしまいや」

「俺は……俺は……………………」


 突然誰に味方するかを問い詰められ、言葉が出なくなる。

 俺がこの街で絶対に助けたいのは、マスターとあーちゃんのパーティーだけだ。

 だが、今あーちゃんのギルドかマスターか、どちらかに駆け付けなくてはならないが、どちらを助けに行けばいい。

 どっちを……どっちに行けばいい。


 マスターか、あーちゃんか。

 二者択一。


 マスターは盗賊の頭としての実力もあり、そこまで心配する必要がないのかもしれないが、盗賊の首領として、積極的に戦争に関わらなければいけない。

 あーちゃんたちは新参のギルドでそこまで戦争に積極的に関わる必要はない。

 それに加え、戦争が起きているのに同じ宿屋にあーちゃん達がいる可能性は限りなく低い。

 対してマスターは楼閣にいる可能性が十分にある。

 ここからマスターの楼閣までもそこまで遠くない。一度マスターに事情を聞き、あーちゃん達のような弱小ギルドがいそうな場所を訊きだす、恐らくそれが今とれる最善手か。


 俺は即座に立ち上がり、マスターの楼閣へと走り出した。


「おいミスト! こんな所で突然走るな! 危ないぞ!」


 ヒイロは俺を慮ってか、背後から追いかけてきているが、俺は構わず走り出す。

 異世界転移で何故かふんだんにある筋力と脚力を活かし、猛スピードで楼閣に入り込む。


「マスター!」


 楼閣へ着き、呼び出してみるが返事はない。

 楼閣は所々がぼろぼろに壊れていて、以前の様相は既になく、さびれていた。


 入り口に立っていた門番もおらず、返事を待つことなく楼閣へと入り込むと、


「嘘だろ…………」


 多数の護衛が床で死んでいた。

 

 真っ赤な血の色が床にこびりつき、異臭が鼻をつく。

 死後数日は経過していることが明らかだった。


 数十名の護衛や【獅死】の刻印がされたフードを被った盗賊、魔物や【金酒】のギルドの手合いなど、ありとあらゆる人間、魔物が床に臥し、絶命していた。

 血が溜まり、足を踏み出すとねちゃねちゃと嫌な音がして波紋を広げる。


 床の全てが血で濡れ、人を踏まなければ上階へとあがれないほどの死屍累々の山々だった。


「マスター!」


 人を踏むことに限りない抵抗があるが、【獅死】の手合いを踏み、上階へと上がる。


 二階、三階、四階、誤解。


 上の階層に行くにしたがって屍はどんどん少なくなっていき、楼閣の崩壊具合も少しずつましになってくる。


 だが、多くの盗賊が絶命しているのは、どの階でも火を見るより明らかだった。

 何より、今まで感じたことのない異臭がその何よりも証左だった。


 上階へ行くたびに、吐き気を催す。

 今まで人の死を身近に見て来なかったどころか、血を流し倒れる死体を見たことすらなかった。

 

「おえええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ」


 思わず嘔吐するが、口を拭き、精神に異常を感じながらも上階へと上り、上り、上り、上る。


 下の階からはヒイロが驚愕の声が聞こえる。

 どうやらついてきたようだ。


 俺は足を止めず上階へと駆けのぼり、ついに最上階へと着いた。


 最上階は驚く程綺麗で、崩壊した場所も死体もほとんどなく、いつもと殆ど変わらない様子だった。


 ただ、一点を除いては。


 俺がこの異世界に転移した際にマスターに借りた寝床、そこには――


 首と胴体とが離れた、マスターの死体が転がっていた。



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