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第19話 肥大する謎

「ミリア」は盗賊の首領の名前(偽名)です。今まで名前を出す機会がなかったです。

3/25(土)ゴーグルに関する話を増やしました。



 盗賊の街、メタスラム。


 冒険者ギルドに従事しているフレーデルは、大通りに面して建てられている豪奢な楼閣へと足を向けていた。

 空高く聳え立つ楼閣を前にして、それでもなおフレーデルは放心気味で、心ここにあらずであった。


「なんだったんでしょうかね……」


 フレーデルの脳裏には先日の騒動が焼き付き、それが原因で、何度も何度も考え込んでいた。


 お金が必要だから、という理由でCランクのクエストを受けようとした危うげな新米冒険者。フレーデルの目に、ミライはそう映った。しかし、実際にはフレーデルの思惑とは裏腹に、彼は纏わりつく火の粉をいともたやすく振り払った。彼に難癖をつけ、突如襲い掛かったのは素行の悪いCランク冒険者ガースト。

 ≪金酒≫ギルドの一員で、冒険者ギルドの中でも有名な冒険者だ。素行の悪さが目立たなければ実力自体はAランクに匹敵するとまでも言われている。そこまでの実力をもってしても、まるで赤子の手をひねるかのように彼の追撃を食い止め、昏倒させた。


 およそEランクの冒険者とは思えない実力に、きな臭いと思ったフレーデルはその後彼の身辺調査を始めたが、最近冒険者になった一七歳の若人で、『あーちゃん親衛隊』というまるで冗談としか言えないようなギルドの副リーダーを務めていた。怪しい所がない訳ではないが、実力に伴っているとも考えられない。

 結局のところ騒動があったことを気にしたのか、その日彼は冒険者ギルドに帰ってくることはなかった。彼の実力から考えても、あのクエストで死亡したとは考え辛い。


「いえ……今はもう考えるのはよしましょう」


 フレーデルは溢れ出る思考の波を振り払い、軽く頭を振り、楼閣へと向き直った。

 今日は盗賊の首領との会談がある。軽く今の盗賊たちの行状を報告し、彼女の方からも何かあれば私たちに伝える、定期的に開催される鳩首会議である。


「よしっ!」


 頬を叩き、気合を入れたフレーデルは、勇み足で首領の待ち構えている楼閣の最上階へと歩き始めた。





「酷い目にあった……」


 ミライは、赤くはれ上がった頬をさすりながら、自身のマスターの楼閣へと足を向けていた。

 「マスターの下へと行く」とアーメルト達に告げ宿屋を出ようとすると、例によってアーメルトとアーシャが喧嘩を始め、ミーシャは無関心に、ベッドで横になって本を読んでいた。

 幾度となく繰り返される喧嘩に辟易した未来は二人を一喝し、療養に努めることを督促したが、その際に「わぁーしの味方をしにゃいのか!」と逆上したアーメルトに猫パンチを貰い、頬が赤くはれ上がることとなった。


「面倒くせぇ……」


 瀟洒な様相を醸し出す楼閣に足を向けながらも、先程あった出来事を思い出したミライは恨み言をぼそりと呟いた。


 今回ミライがミリアの下へと向かったのは、ミリアによくしてもらってから今までにあったことの報告をするためである。

 ミリアに盗賊としての立場を授けられたのにもかかわらずあまり定期的な報告をしなかったな、と少し胸の痛む思いでミライは歩いていた。


 だが、ミリアの下へと向かったのは今までの報告だけにあらず、アイテムボックスに入った謎の液体の正体や湿地帯で出会った謎の女、また、その女に追従していた多数の魔術師、他、湿地帯のモンスターについての情報を教授してもらうためでもあった。



 そうして、ようやくミリアの住まう楼閣に辿り着いた未来は、門前で護衛をしている男たちに捕まった。


「何用だ貴様」

「え~……えーっと、ここのマスターに会いに来ました」


 護衛達の詰問に少し驚きながらもミライ返答する。


 が、ミライはその実、相当焦っていた。


 前回はミリアと一緒に楼閣に入った時も多数の護衛を見かけたが、ここまで厳しく検問され、警護されているとは考えていなかった。


「アポイントメントは取っているのか?」

「いえ、全く」


 アポイントメントの必要性に全く気付いていなかった。


「そうか、なら次にアポイントメントをとってからまた来い」

「……はい」


 ミライは警備の者たちに逆らうことなく、その場を後にした。それなりの地位を持った者に無為に逆らうようなことを良しとしなかったため、とぼとぼと帰路についた――


「おい、ミスト!」


 が、ミライの気配を感知したミリアが楼閣の最上階から降り立ち、ミライに声をかけた。


「あ、マスター。お久しぶりです」

「よう、久しぶりだなクソボケ。さっさと上がれや」


 ミリアの声を聞き、足を運んだことが無駄にはならなかったな、と少し喜色を浮かばせながらミライは彼女の下へと向かった。


「あんな奴が首領の知り合いだったのか……」

「人は見かけによらないものだな……ああ見えて首領の知り合いだ、相当な実力者なのだろう」


 と、護衛の声がぼそぼそと漏れ聞こえてくるが、アポを取っていない人間を追い返しただけであるので、彼らに罪はない。


 ミライはミリアに連れられながら、楼閣の最上階に向けて歩き出した。





「遅っせぇなぁ、おいミストあぁ!? 息災だったか?」

「すいません、本当に色々あったんです。はい元気です。ツンデレですか?」

「ツンデレ……? スキーの練習場のことか?」

「それはゲレンデですね」


 最上階への階段をのぼりながら、ミライはミリアと益体もない会話を交わしていた。


「お前ちょっとおしかったなぁ。もうちょい早くに来れたら盗賊ギルドに関与する色んな奴が集まる鳩首会議ここでやってたんだぜ?」

「そんなのあるんですか、もうちょっと早く来たら良かったですね」


 中身のない会話に中身のない返答をする。久しぶしのミリアとの再会に、ミライはどことなく緊張していた。

 そんなミライの緊張を察してか、ミリアは積極的にミライに話しかける。


「そういえばミスト、お前盗賊ギルド作ったんだってな」

「あぁ……」  


 突然のみミリアの追求に、ついにばれてしまったか、とミライは天を仰ぐ。

 お笑いギルド『あーちゃん親衛隊』(笑)、ミライはそのギルドの副団長をしていた。 

 

「マスター、どこでそんなこと知ったんですか。耳が早いですね」 

「いや、当たり前だろ。私は盗賊の首領だぞ、今日の会議で新興したギルドとそのギルド員見てたら気付くわ。お前あーちゃん親衛隊の副団長かよ……しかも、リーダーが本人って……なんだそれ、くすくす」 


 ミリアはミライの所属するギルドを揶揄し、くすくすと笑う。

 ミライもその揶揄は至って尤もで、正鵠を射ているものだと思った。


「僕がマスターの楼閣を出た後、変な猫の獣人の女に会ってそのまま入らされたんですよ。街に来て突然ギルドの副団長になるなんて全く考えもしなかったですよ」


 ミライは楼閣を出たその後の成り行きを簡単に説明する。


「そんなことあったのか。ということは、そのゴーグルも貰い物か?」


 ミリアはミライのゴーグル、ストールを注視し、指差した。


「あ、はい。これその団長から顔を隠すために、って貰ったんですよ。本当に感謝しかありませんね」


 ミライはゴーグルを装着し、ストールで口元までを隠しミリアに見せてみる。


「なるほど…………いい奴と出会ったな。大切にしろよ」

「はい、そうですね……。馬鹿だけどいい奴です。ありがとうございます」


 ミライはアーメルトと出会えたこと、アーメルトを救えたことをうれしく思いながらも、きゅっとストールをたくしあげた。



 その後も互いの近況を話しながらも二人は楼閣の最上階に辿り着き、ミライは本題を切り出した。



「知らん」

「えぇ?」


 ミライは湿地帯で合った様々な出来事や理解不能な事象の全てをミリアに打ち明け、教授を求めたが、対するミリアの返答は知らない、の一点張りだった。


「全然役に立たないじゃないですかマスター。本当に盗賊の首領なんですか?」

「いや、知らねぇもんは知らねぇっつの。そんな事態に陥ったこともないし聞いたこともない」


 そう言いながらも、ミリアはミストのステータスの異常性が関与しているであろうとあたりを付けていた。

 ミライのステータスは異常である。湿地帯で合った出来事についても多少の推測は出来る。恐らくは、ミライの力を恐れた何らかの集団が湿地帯のモンスターたちをけしかけ、殺害をしようとしたといったところだろう。


 だが、一つどうしても納得のいかないことがある。ミライのステータスをもってしてもその結界を破壊することしか出来なかったという謎の魔術師のことだ。

 自分と大差ないステータスを持っていれば大抵の魔法使いは敵ではない。ましてや、結界を破壊することにすら窮するようなことはあり得ない。それに、反撃を返してこなかったということにも得心できない。殺す気がなかったのか……? 

 いや、殺す気がないなら元々襲撃をかける必要性がない。殺す気がなかったわけではなく、殺せなかった…………のか……? 分からない。ミリアは可能な限りの推測を全て行ったが、やはり理由は分からなかった。

 今回の事象はミライ一人の問題などではなく、もっと根本的な……盗賊ギルドの全てに関与するようなそんな大きな事象かもしれない。


「とはいえ……この液体が何かは分かるな」


 ミリアは眼前に出された液体を軽く眺め、頷く。


「なんですかこれは?」

万能薬エリクサーだ」

「エリクサー……」


 ミライはミリアの言葉を咀嚼し、反芻する。


 エリクサー、日本でもよく聞いたことがある有名な薬だ。その薬は体の欠損すら直すことが出来る伝説の秘薬。それが、日本における一般認識であり、ミライはその可能性に思い至る。


「エリクサーって伝説の秘薬……ですか?」

 

 一応の確認をしようとミライは尋ねる。


「そうだ」

「やっぱり……」


 まごうこと無き事実に、慄く。どうしてそんな伝説の秘薬が何本もアイテムボックスの中に入っていたのか。ご都合主義を展開するにはあまりにも異質すぎる。


「なら、どうして僕のアイテムボックスの中にこんなものが……?」

「知らん」

「……」




 結局、ミライが得られた情報は、謎の液体がエリクサーだということだけであった。

 とにもかくにも、これから調べなければいけないことが多くできたな……と、ミライは大きなため息をついた。


 そして一方ミリアは、平常心を装いながらもミライの体験した様々な事象にきな臭いものを感じ、個人でその謎を追い求めることを決めた。



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