第12話 魔物が運んできたもの 2
嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ。
俺はあーちゃんと双子たちを前にして、相当狼狽していた。
あーちゃんと双子とは裏腹に何故か俺には全く何の影響もない。男には効かない何かが起こっているのか、何故か豊富に使用できるスキルが常時使用状態になっており、その効果で弾いているのか、俺だけを対象から外した外部からの何らかの攻撃なのか。
とにかく、重篤に見られる双子を放っておいて帰るわけにもいかないので、あーちゃんを背負い双子の元へと赴いた。
「し……しっかりしてください! 一体何が!」
「う……あんたはさっきの……帰って来るなんて殊勝じゃん……百点満点、あげちゃ……ゲホッ」
アーシャさんはこんな状況になってもなお自らのアイデンティティを崩すことなく口調を変えない。が、その所為で吐血した。
「お……お前帰って来たなの……帰って来るなんて馬鹿なの、零点……ゲホッ」
「もう二人とも喋らないでください!」
こいつらはバカなんだろうか。
俺はあーちゃんと双子を近くの木に寄りかからせ、必死に脳を働かせる。
何故だ、何が起こった、一体何で……。
だが、考えども考えども全く答えは出て来ない。そんな苦悩の中、ふいにあーちゃんが口を開き――
「ミスト……私のベルトポーチに入ってる体力回復薬を飲ましてほしいにゃ」
俺に天啓のごとく教えてくれた。
「分かった! 失礼……」
俺はあーちゃんの腰元をまさぐり、サイドポーチに手をかけ、その中からポーションを三本ほど取り出す。
赤い色と青い色のポーション。
日本のRPGで得た知識でしかないが、おそらくは赤い色のポーションが体力回復薬なんだろう。俺は即座にそのポーションの蓋をキュポンと外し、あーちゃんに飲ませる。
「ん……んん……」
あーちゃんは苦しそうな顔をしながらも細長いポーション一つを飲み干した。
「あーちゃん、大丈夫か!?」
「……」
あーちゃんは、喋らない。いや、喋れないのか? 暫くあーちゃんの回復を待つが、あーちゃんに全く回復の兆しは見られない。
「あーちゃん! あーちゃん!」
「ミス……ト……ダメにゃ……ポーションは役に立たないにゃ……」
「くそ! くそぉ!」
俺は、悲惨に喚き立てる。
クソ、どうしたらいいんだ、どうしたら。このままじゃ双子もあーちゃんも目の前で死ぬのをただ座して待っているだけになってしまう……。
異世界に来て最初に体験するのが俺を助けてくれたあーちゃんの死だなんて嫌だ、嫌すぎる。
あーちゃんと双子は苦しそうに呻き、木に全体重をかけている。
畜生、どうすれば……!
俺が、そんなあーちゃんと双子の様子に気を取られていたからか、知らぬ間に湿地帯の霧が深く、濃くなっていた。霧は俺たちの頭上程までかかり、わずか一メートル先すらも見えない程の濃さになっていた。
「あーちゃん! 霧が濃くなってる! なんで!」
「し……知らないにゃ……そんなの聞いたことにゃいにゃ……」
あーちゃんに理由を聞くも、あーちゃんすらその理由が分からない。こんなに霧が深いと帰り道が全く分からない。俺一人じゃああーちゃんと双子を担いで町まで帰るなんて絶望的だ。普通に担いで帰るだけですら難しいのに、濃霧に侵された所為で帰る可能性がより絶望的になって来る。
「畜生!」
俺は、叫ぶ。同じことを何度も何度も叫ぶ。
俺が弱いからだ。勇者適性最高だなんてもてはやされてそれにあやかって自己評価を無駄に高くしていたからこんなことに……目の前で三人もの人が死亡することに……。
俺があーちゃんと双子を見下ろしながらも何か解決法がないかと、周りを探っていると、四方八方から黒い影が見えた。
その数――およそ百五十体
先ほどあーちゃんが屠っていたウィンドスネークに加え、片目に傷があり巨体を誇る熊や、地面の近くを這い、逞しい顎門を持っているクロコダイルのような鰐、それに加え動く樹木や、高速で俺たちの周りを回り、霧のようなものを噴出しているエリマキトカゲのような魔物。
これは――
やばい。
霧が深いせいで、魔物の位置が定かには特定できない。
「どうなってやがる!」
魔物に囲まれ、早くに魔物を屠っておかないとあーちゃんたちが危険であると考え、無策にも魔物に突っ込もうとした。
が――
突如足元の地面がぬかるみ、蟻地獄のように泥沼が俺の足元を止めた。
大量の魔物に囲まれながらも俺は歩を止めることしか出来ず、このまま突っ込めば魔物の中であーちゃんたちが食い殺されると考え、即座にバックステップを踏むが、
ヒュン
と、風の刃が俺の近くを通り過ぎ、その直線状にあった木が真っ二つに両断された。
な……。
どうすればいい、どうすればいい!?
俺は、最悪の状況の中で解決策を全く考えることも出来ず、ぬかるんだ泥沼に足を取られ最期の夜を過ごそうとしていた。