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プロローグ

校閲や付け足しなどのマイナーチェンジは特に記載しませんが、話に関わってくる話の変更は変更日時と内容を記載いたします。

1/19(木)プロローグ、完全改変しました。



 特に何の変哲もない日本の片田舎にある高校――『南堀筋高校』

 

 そんな人知れぬ高校への登校中、突如俺、篠塚未来しのつかみらいに罵声が投げかけられ――


「おい、てめぇトロトロ進んでんじゃねぇぞ!」


 同時に後ろから蹴りつけられた。

 突然の理不尽な暴力に、俺は振り向き言葉を返そうとするが――


「誰お前」


 俺を蹴りつけた張本人、野畑敦彦のばたあつひこの近くで歩いている、三井英俊みついひでとしに関与を否定された。いや、特別な理由もない拒絶を、突きつけられた。


「はぁ……」


 またか……。


 俺はいつもの光景に嘆息する。


 そんないつもの光景をやり過ごすため、出来るだけその二人から距離をとり、道の端へと寄るが――


「おい、陰キャ」


 そんな俺を見逃すことなく、北陽介きたようすけが話しかけてきた。


「なんでそんな道の端で歩いてるんかね、もうちょっと真ん中で歩こうとか思わないのか? 俺らがいるから端で歩こう、とか思ってんのか? もうちょっとそういうところ直そうとか思えよ、俺らに失礼だろうが」


 次いで、対話にすらならない一方的な暴言を吐き捨ててくる。特別に意味のない誹謗中傷を並び立てる。

 まるで自分の考えていることが全て正しいと思っているような傲岸不遜な態度。高圧的に、偽善的に、相手を強制し、矯正するような言葉を並び立てる。相手のことを全く慮らない、悪辣な言葉の羅列。吐き気がする。

 俺が道の端を歩こうが俺の勝手だろう。俺がそうすることでお前らに何の迷惑がかかるっていうんだ。そもそもお前らが絡んでくるから端で歩いてんだろうが。


 そうは考えるが、俺は何も言い返さない。言い返せば余計にひどくなることが分かっているからだ。

 そんな俺の様子を見て北は腹に据えかねたのか、野畑を呼んだ。 


「野畑~、こいつ話通じねぇわ」


 呼ばれた野畑は北の嫌がらせに加担するかの如く――


「おらっ!」


 地面を蹴り、俺に泥をかけてきた。

 

「くっ……」

「ぎゃはははははは! きったねぇなぁ~!」


 野畑は哄笑する。はねた泥を全身に浴び、焦げ茶色の斑点を付けた俺を、嗤う。


 俺は、虐められている。


 昔からこうだった。それこそ暴力はふるってこないものの、こいつらは、あらゆる手を使って嫌がらせを仕掛けてくる。どうしてそこまで嫌がらせを考え付くことが出来るのか。


 俺に嫌がらせを仕掛けてくるその三人――北陽介きたようすけ野畑敦彦のばたあつひこ三井英俊みついひでとし――は、小学校から継続して俺をいじめてくる一団だ。小学校から高校まで常に俺に嫌がらせを仕掛けてきていた。いや、俺を嫌う人間は多くいたが、中でもその三人がたまたま高校まで一緒になってしまった、という方が正しいか。目の敵にしている、とすら言える。


 何故か・・・目立たないように、隅で生きているのにも関わらず周りの人間から反感を買い、嫌われる。そして、嫌がらせを受ける。

 

  中学校までは小学校と殆ど同じメンツがそろっているため、俺の立ち位置を変えることは出来なかったが、高校生になって、いじめられることから脱出しよう、と試みたのにも関わらず結局いじめられた。所変われどもいじめられることは変わらなかった。

 俺は特に口調が悪い訳でもなく、性格がそこまで悪い訳でもなく、目立ったようなこともないと自負しているが、なぜか嫌われる。いや、自分で自分のことを性格が悪くはない、なんて言っているのが嫌われる原因なのだろうか。


 小学生の頃には、学校の授業で育てていた朝顔が水びだしになって枯れてしまっていたり、育てていた金魚に餌が大量に投下されて金魚が死んでしまっていたり、物凄くステレオタイプに、上履きの中に押しピンが入れてあったりもした。


 中学生になると、昼休憩にトイレへと赴き、帰ってくれば俺が昼ご飯で食べる予定だったサンドイッチが潰れていたことがあったり、登校してみれば机の中に腐ったもやしがいれてあったり、夏に来てみれば蝉の死骸が机の上に置いてあったりもした。


 証拠こそないものの、そのいじめの殆どを率先して行っていたと考えられるのが、その三人だ。


 どうしてこんなにも俺は嫌われるんだろう。一体俺のが嫌だというのだろうか。俺の何が悪くてこんなことになってしまっているのだろう。女子も男子にも嫌われる。女子はまだマシだが、男子からは謂われ無い暴力を振るわれることも、稀にある。


 こう見ると何故やり返さないのか、と思われるが、俺は高校二年生、今暴力を振るって内申点に傷がつくことは避けたい。中学生の頃も同様の理由で、俺が暴力を振るうことはなかった。

 まぁ高校生の内申点が大学進学に響く場合はごくわずかなのだが、理由は他にもある。ここは田舎の高校、俺が暴力を振るったなんてことが知れ渡れば、この狭いコミュニティの中ではすぐに広まってしまう。


 そうなれば、母さんや父さんは、暴力を振るう子の親だ、と白い目で見られることになる。

 俺は養子で、母さんと父さんに拾われた身であるので、親に迷惑がかかるようなことは絶対に出来ない。



 俺は今日も、毎日のように繰り返される陰湿な嫌がらせに耐えながら、足を速め学校へと赴く。






 

 ――南堀筋高校玄関口


 俺は先生に泥で汚れた制服を泥はねだと説明し、教室へとたどり着いた。

 いじめられている、と言えればよかったが、いじめられているとなれば、両親に心配をかけることになる。

 やりかえせば両親が白い目で見られ、いじめられていることが知られれば両親が心配をする。どちらも両親に迷惑をかけるため、何も出来ない。養子の俺を暖かく育ててくれた両親には本当に感謝している。


 今は耐える時期なんだ。俺は自分にそう言い聞かせながら、毎日をつつがなく暮らそうと励んでいるが――


「うわ、篠塚じゃん……キモ……」

「うわ……」

「何で学校来るわけ……」


 教室に入るや否や、女子たちに暴言や罵詈雑言という責め苦を味わっていた。

 だが、男子たちのように物理的な嫌がらせがない分、幾分かマシだ。陰で何を言われていようと俺には何の関係もない。


「そんなことを言っちゃだめだよ、感じ悪いよ」

「絢瀬……あんた止めなよ」


 勿論、捨てる神あれば、拾う神もある。俺を嫌う人間がいれば、俺を擁護しようとする人間もいる。しかし、大多数は俺を嫌っている人間なので、声を大きくして俺を擁護しようとはしない。逆に自分がいじめられるからだ。

 実際は俺のことを別に嫌っているわけではないが、周りの皆が嫌いと言っているから、という理由で俺に暴言を吐き捨てるような奴も多数いるだろう。


「本当気持ち悪い、死ねばいいのに」

「私あいつと席近くなんだけど、マジ最悪」

「超~キモイんですけど~」


 俺への罵詈雑言はだんだんと形を持って俺に投げかけられる。集団心理というやつだ。もはや陰口にもなっていない声を聞きながらも、俺は席に着き授業が始まるのを静かに待った。





 授業中は特に問題なく過ぎ去り、昼休憩に突入した。


 俺は母さんに作ってもらったお弁当を机で広げ、食べる。勿論、一緒に食べてくれるような人間はいない。ペアになれ、という教師の言葉は、何故か嫌われる俺にとっては困りものだ。

 

 俺がいつものように誰の目に付くこともなく、もそもそとご飯を食べていると――


「マジぃ……今日もあいつここで食うんじゃん? うっぜぇ」

「マジきもいんですけど。トイレとかで食べてろ? っていうか?」

「いや、ほんと。もうちょっと私たちのこと考えろ、って感じ」

「本当、近くにいるだけで臭いよね」

「「臭い~」」


 心無い女から言葉が投げかけられた。いや、小声で囁かれたというべきか。

 なぜ女からも嫌われるのだろうか。全く何も害意を与えていないというのに。いや、本当に俺が臭いのか……?

 近くでまとまってご飯を囲んでいる女子は俺を見てくすくすと笑ったり、陰口を言うので、出来るだけ離れているはずなのだが。

 

 昼食中に俺にそんな風に暴言を吐き捨てるのは女子だけに限らない。俺に嫌がらせを何度も何度も繰り返してくる三人も同様である。


「なんでああいう食い方するんかね」

「うわ、きっも。あいつ食い方めっちゃきめぇじゃん、ぷっ」

「何あいつ」


 こういう風に、大声で俺を貶しにかかる。女子が俺に執拗に突っかかって来るのは、こいつらが、人目をはばからず俺を貶しているというのも大きく関係している気がする。


 その三人の中で、俺の無反応に苛立ったのか、北がこちらに向かって歩いてきた。


「おい、篠塚。お前もうちょっと人に気を遣うとか出来ないわけ?」


 全く訳の分からない言葉が投げかけられた。こいつの言葉はいつも何を言っているのか分からない。俺が一体何に気を遣うというのだろうか、ご飯を食べているだけだ。

 俺は北の話を聞きながらも、箸で掴んでいた玉子焼きを頬張る。


「人の話を聞けや。そういうところ直せよ」


 北は、苛立ちを募らせ、俺の机に荒々しく手をついた。


 バンッ、という音が響き、女子たちの目線が一斉にこちらに向けられる。女子が俺を嫌う理由に、俺がいると教室の空気が悪くなる、というのもあるのかもしれないな。


「おい、さっさと返事しろや」

「ごめん、今ご飯食べてるから」

「ちっ」


 俺があまりにも不愛想に対応したため、北はついに苛立ち、俺の胸倉を掴んだ。


 北が、胸倉を掴むために詰め寄ったことが原因で、俺のお弁当が落下し、食べ物が地面に散らばった。


 それは、意図したことではなかったのだろう。だが、事実として、北は俺のお弁当を落下させた。


「あ、お弁当が……」

「今食い物のこととか関係ねぇんだよ、お前の食い物がまずいなんて知ってるから」


 北はお弁当を落としたことに全く罪悪感を感じる様子もなく、二の句を継ぐ。


「人の言葉には誠意を持って対応しろよ。お前そんな基本的なことも出来ねぇのかよ。自分の悪い所が分かってて直さないのは悪だ」

「……」


 北は、自分本位に、言葉を継ぐ。ならお弁当を落として謝らないことも、誠意を持った対応なのだろうか。


「汚ねぇからさっさと片付けろよ。ちょっとは人のことも考えろよ」

「……」

「ちっ……はぁ」


 北は、何の反論もしない俺に興を失ったのか、そう言い残し、自分の席へと戻った。


 母さんが作った俺の弁当が台無しだ。あ、一応断っておくが、母さんのお弁当は美味しい。


 俺は、北が落とした弁当を片付け、地面に落ちたハンバーグとたこさんウィンナーを手に持ち、ソースなどがついた床の汚れをティッシュで拭き取る。


「さいてー」

「篠塚死ねよ」

「マジきもい、近づくなよ」

「床汚すなよ、ゴミ」

「こいつめっちゃきもいもん食ってんですけどぉ~、ウケる~」

「「死んで~」」


 俺のたこさんウィンナーが落ちた辺りでグループになって俺の陰口を言っていた女子たちが手を叩きながら、嗤い、暴言を吐く。安物のゴリラの玩具みたいだ。声が大きすぎて俺に丸聞こえだ。少しは俺のことを考えてはくれないだろうか。


 俺の弁当に残っていたのは後この二品だけだったので、気まずさも手伝って、教室の悪い雰囲気から逃げるように、この二品を洗いに教室を出た。





「はぁ……」


 俺はたこさんウィンナーを洗いながら、ため息をついた。幸福が逃げていくようだ。まだ俺に幸福の在庫があるのかどうかすら怪しい所だが。

 俺は洗ったたこさんウィンナーとハンバーグを頬張り、何ともなしに外に目をやる。


 すると、窓越しに、雑木林の中に十数人の男に囲まれる女を見た。


 南堀筋高校は山の麓にある田舎の高校で、近くにはあまり目立った建造物は見られない。強いて言えば、『大内大学』が近くにあるくらいだ。まぁ、大内大学の付近には色々な店が立ち並んでいるのだが。


 男たちは、女を取り囲み、雑木林の奥に入っていく。


 ヤバい。女の人が襲われている。


 咄嗟にそう理解した俺は、考える前に足が動いていた。


 窓から飛び出し、男たちを追いかけていた。


「おい、篠塚! もうすぐ授業だぞ、こんな時間からどこに行くんだああぁぁ!」


 先生の声が聞こえた。だが、今先生に事情を説明している暇はない。早くしないと、女性が襲われる。


「待て、篠塚あああああぁぁぁ!」


 そんな先生の言葉を背中に聞きながらも速く、速く、速く、全速力で駆け抜け、俺は男たちに追いついた。


「追いついたぁ……」


 何も考えず、俺は男たちの目の前に出てしまった。樹の影から様子を伺う、だとか背後に回って奇襲をしかける、だとか考えれば色々手段はあっただろうに、妙な・・義侠心に駆られ、飛び出してしまった。


「なんだお前」


 男たちは、女性を取り囲み、今にも雑木林に連れ込もうとしている途中だった。あまり色々と考えずに飛び出したのは案外正解だったのかもしれないな。間に合ってよかった。先生も俺のことを追いかけているようだし、それまでは俺が持ちこたえさせなければいけない。


「止めてください、その女性が困って……」

「邪魔だ、消えろよ」


 男たちは、俺の言葉を聞ききることすらせず、俺に向かって回し蹴りを繰り出した。


「……え?」


 思いもよらぬ突然の肉薄に、俺は全く反応することが出来ず――


「あ……」


 側頭部へと踵が直撃する。

 俺は側頭部にダメージを受けたことでめまいを起こし、その場に倒れた。脳震盪というやつなのだろうか。


「篠塚あああぁぁぁぁーーー!」


 俺の背後で、先生の声がした。あの男、手出すの早すぎだろ……。いや、足を出すのが、か……。


 脳震盪の影響か、意識が段々と薄らいでいく。その薄らぐ意識の中で――


「ちっ……顧問なんていたのかよ……。おい、里香、行くぞ。例の物はあんだろうな?」

「ちっ……当たり前でしょ………………あれ!? ない!? ない! さっきこのガキが突然来たから、ビックリして落としちゃった!」

「何やってやがるクソ野郎! クソが、殺すぞ!」

「ない! ない!」


 女性と男の、そんな掛け合いを、聞いた。えぇ……仲間だったのかよ……変な気を起こして助けに行くんじゃなかった……でも、ならなんで・・・この男たちは即座に俺に突貫してきたんだろうか。

 俺が薄れゆく意識の中でそう考えている内にも、先生はだんだんとこっちにやって来る。


「篠塚! 篠塚――――!」

「ちっ……まぁ良い。今は一旦引くぞ。後で探しに来るぞ」

「うす!」

「どこにあるのよ……」


 そんな先生の姿に恐れをなしたというのか、多くの人目につくのを恐れてか、男たちは一度引いてくれるようだった。


 男たちの姿が見えなくなった辺りで先生が俺の元に辿り着き―――


「大丈夫か、篠塚! しっかりしろぉ! しっかりしろおおぉ、篠塚あああぁぁぁ!」


 耳が痛くなるほどに叫んだ。うるさいよ。


「先生、うるさい」

「す……すまん、篠塚、大丈夫か!?」

「もう……寝かしてくださいよ」

「篠塚ああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」


 俺は率直な感想を言うと、先生はまたも熱苦しく叫んだ。もう眠いんですよ、先生。寝かしてくださいよ。脳震盪の影響か、視界もだんだんと狭窄していく。

 俺はもう死んでしまうのだろうか。


「しっかりしろ、篠塚あぁ!」


 あぁ、もう駄目だ。眠すぎる。雪山で遭難したときの眠気がこのくらいなら、寝てしまうのも理解できるのかもしれないな……。

 そう考えながらも、先生の腕の中で微睡む。


 死の際にいるからか、近くの地面を手当たり次第に手探ってしまうい、枯れ葉を大量に掴んでしまった。

 溺れる者は藁をも掴む、というやつだろうか。俺はもう死んでしまうかもしれない。


「死ぬなああああああああああぁぁぁ、篠塚ああああああぁぁぁ!」


 暑苦しい男の先生の腕の中で死ぬ最期っていうのも、中々乙なものなのかもしれないな……。









 俺は先生の声を聞きながら、意識を手放した。



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